文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

薬と薬草のお話vol.75 ゴミシと五味子(ゴミシ)

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.75 ゴミシと五味子(ゴミシ)

薬用基原植物
Schisandra chinensis Baillon (Schisandraceae)

 冬枯れの枝葉となごり雪の景色かもと思いながらも春を待ちきれず、今年はここ数年あきらめていた山辺の散策に出かけました。いつもの冬景色の記憶では雪が残った山道だったのですが、白雪をまとった木々を見かけることができず、温暖化などが気がかりになります。お薬や処方の構成を考えるときにも、この気候の変化に適した生薬を探してしまうことがあります。例えば今回のゴミシ(五味子)がそうです。

 五味子は日本では中部以北から北海道、海外では朝鮮半島、中国などに分布するマツブサ科のつる性落葉低木で、夏、芳香のする白い花をつけたあとの秋に小さな紅(あか)い果実が熟す頃採取して陽乾したものを生薬「五味子」として使用します。この五味子を処方に組み入れる場合、いくつかの効果を期待して配剤し、例えば大きく三つ、鎮咳(ちんがい)作用、収渋(しゅうじゅう)作用、滋養作用と考えることもできます。

 現在のエキス化汎用(はんよう)処方の中では小青竜湯(しょうせいりゅうとう)に鎮咳作用の薬味として、清暑益気湯(せいしょえっきとう)中に収渋作用を期待して、人参養栄湯(にんじんようえいとう)中に滋養作用を期待して配剤されると考えることもできます。さらに人参、麦門冬(ばくもんどう)、五味子の三つの生薬からなる生脈散という処方は多量の汗をかいた後、熱中症や過度の運動後、発汗しすぎで倦怠(けんたい)感、口の渇きや体力消耗状態のような時に用いることができます。

 私が漢方に触れ始めた頃は、あまり五味子のことは知りませんでした。が、五味子は韓国のお茶オミジャチャ(五味子茶)としても有名。また日本の栄養ドリンク剤の中にも入っているという説明を見ましたが、五味子のもつ特徴的な「鹹味(かんみ)」のせいか現在は配合されているものは少ないと思います。

 今年初の山歩き、か細い枝をピアノ線でひっぱったように上に向かって突き上げている桜並木や、灰色と薄墨色で組み合わされたような冬の山肌を通り抜け、昔、家族で植えた樹木にたどり着きました。大丈夫、花芽が残っていました。次の春、もうすぐかもしれません。


2023年2月28日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

トップへ ページの先頭へ