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薬と薬草のお話vol.74 カギカズラと釣藤鈎(チョウトウコウ)

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.74 カギカズラと釣藤鈎(チョウトウコウ)

薬用基原植物
Uncaria rhynchophylla Miquel, Uncaria sinensis Haviland
または
Uncaria macrophylla Wallich (Rubiaceae)

 朝の冷気で気持ちを切り替えて職場に向かう日々が始まると、今年は物忘れ(認知症)などの薬のニュースを目にし、たちまち仕事場の薬品棚の景色が脳裏に迫ってきました。化学成分に限らず薬草の世界でも、物忘れや不安などに適した生薬があり、例えばカギカズラ、生薬名「釣藤鈎」が挙げられます。

 「釣藤鈎」の基原植物・カギカズラは、日本でも関東以西の温暖な地域に自生しているアカネ科の蔓(つる)性植物です。6~7月頃球形の花序(かじょ)を咲かせるそうですが、私は写真でしか見たことがありません。私のカギカズラとの出会いは、むしろ生薬として使用する茎についた特徴のある釣り針のような形のトゲで、これを使って他の草木に巻き付いて成長し、その蔓(茎)を春と秋に採取して陽乾(ようかん)、または湯通ししたものを使用します。主な成分としてはリンコフィリン、ガイソシジンメチルエーテル、ヒルスチンなどを含有しています。

 現在エキス化され汎用(はんよう)される処方では、抑肝散(よくかんさん)、七物降下湯(しちもつこうかとう)、釣藤散(ちょうとうさん)などです。なかでも江戸時代後期に工夫された、九味の生薬(半夏〈はんげ〉、白朮〈びゃくじゅつ〉、茯苓〈ぶくりょう〉、当帰〈とうき〉、川芎〈せんきゅう〉、陳皮〈ちんぴ〉、柴胡〈さいこ〉、甘草〈かんぞう〉、釣藤鈎)からなる抑肝散加陳皮半夏のエキスは、近年脳内のセロトニン受容体への作用から加齢に伴う不安や記憶低下などが改善されることなども報告されています。

 普段の生活においてこの抑肝散加陳皮半夏は、体力中程度を目安としてやや消化器が弱く、神経がたかぶり、イライラなどがあるときの神経症や不眠症、小児疳(かん)症(神経過敏)、更年期障害などに効果的とされています。

 一年の初め、長寿を祝って過ごした私の両親の場合、年を重ねるごとにふとしたことを思い出すのに時間がかかり、不安に思うことがありました。けれど今は思い出せずあれこれと話し合ったことも懐かしく思えます。

 立春はもうすぐ。元気を出してまた動き始めましょう。 


2023年1月31日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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