薬と薬草のお話

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vol.72 カキと牡蛎(ボレイ)

薬用基原植物
Ostrea gigas Thunberg (Ostreidae)
2022年11月29

 秋、紅葉色の山肌の美しさに心和む季節です。

 生薬の話ではこれまで山のもの、陸産由来の植物基原が続きましたが、中には海産からの動物原材料のものもあります。その一つが今回のカキ(牡蠣)の貝殻、生薬ボレイ(牡蛎)です。

 牡蛎として使用するには殻の付着物を除き、長時間天日にさらして砕きます。外面が淡緑灰褐色、内面が乳白色の薄い小片を生牡蛎(ショウボレイ)と呼びます。処方によっては修治(加工法)の異なる、煅牡蛎(タンボレイ)と呼ばれるものもあります。主要成分は炭酸カルシウムなどの無機塩類で、日本薬局方に沿った煎じ用の牡蛎は薄さ1~2㎜の乳白色のきれいな切片です。

 実際エキス化され販売されているものには、桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)や柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)、定悸飲(ていきいん)などがあります。これらの漢方処方に配剤される牡蛎は「重鎮安神(あんじん)」の効果、いわゆる不安感や不眠、動悸、イライラなどの症状がある場合に選薬されます。他方、年末年始の漢方胃腸薬として有名な安中散などにも配剤されており、制酸作用、胃痛や胸やけなどを伴う神経性胃炎や慢性胃炎に使うことがあります。

 学生時代、生薬の研究室は乾燥させた草木の乾燥物が大半の中に、白い切片の牡蛎があり不思議な感じがしました。

 栽培条件が複雑で高貴な生薬は、貴重な自然からの産物です。研究の歩みを止めず、より有効な薬の開発や、成分を見つけることが大切なのは言うまでもありません。けれど、当時学生の自分には、人が食したあとのカキ殻の利用法、古人の自然の産物、天然物の利用法には敬服させられました。

(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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