薬と薬草のお話

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vol.70 チョレイマイタケと猪苓(ちょれい)

薬用基原植物 Polyporus umbellatus Fries
(Polyporaceae)
2022年8月30

 外気温が真夏の体温並みの朝から少し和らぎはじめました。箕面の山辺を歩くと、キンミズヒキの枝先にトンボがホバリングしているところに出会いました。そろそろ秋支度を考えたくなります。

 漢方薬の世界でマイタケと名の付くものがあり、それが今回のチョレイマイタケ、生薬名「猪苓」です。夏緑広葉樹の根に寄生するキノコの一種で、子実体は初夏から秋にかけて菌核から生じ、淡黄褐色の小さな傘が集まっているように見えるそうです。生薬として使用するのは地下部分(菌核)の方なので、また自然界での自生は珍しく「幻のキノコ」と言われているそうで、私は地上部の姿を見たことはありません。普段スーパーでマイタケのパックを見ると、猪苓の和名を思い出します。

 猪苓と私の初めての出会いは五苓散(ごれいさん)(沢瀉〈たくしゃ〉、猪苓、茯苓〈ぶくりょう〉、白朮〈びゃくじゅつ〉、桂皮〈けいひ〉)の調整で使った淡褐色のチョレイ末で、この処方は、のどの渇きがあり、尿量が少ない場合のめまい、吐き気、頭痛、むくみなどに用いられ、利水効果を期待して患者の体力にかかわらず使うことができます。他に代表的な処方例は、猪苓湯(猪苓、茯苓、沢瀉、滑石〈かっせき〉、阿膠〈あきょう〉)があり、やはり尿量減少、口渇排尿痛、残尿感など自覚症状がある場合に使用することができます。調整で使う煎じ薬用の「猪苓刻み」は肉厚で粉っぽい手触りで、シイタケやキクラゲを刻んだようにも見えます。いずれの処方も比較的短期間で服用後の効果を期待でき、現在ではエキス化製剤が市販されています。

 私の秋支度はまず食欲の秋。キノコの炊き込みご飯の具に、思い切って清水の舞台をものともせずの気概でマツタケか、それともマイタケかと思いが廻(めぐ)り出します。秋の深まりは猛暑を耐え抜いた身体の気力を少し取り戻してくれるかもしれません。元気を出して次の季節に備えましょう。

(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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