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薬と薬草のお話vol.67 ドクダミと十薬(じゅうやく)

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.67 ドクダミと十薬(じゅうやく)

薬用基原植物 Houttuynia cordata Thunberg
(Saururaceae)

 大阪北部の気象予報が「洗濯日和の晴天」「初夏並みの暑さ」とニュースで伝えられたので、急いで洗濯物を干そうと庭に出た朝のことです。例年と違い、今年は梅雨入りより前に、物干し場の柱の足元に4枚の清楚(せいそ)な白い花びらを広げているドクダミに出会いました。夏が近づいているのでしょうか。

 ドクダミは東アジア原産で、私の住んでいる所に限らず、日本では北海道以南から各地に広く野生する多年草です。白い花びらのように見える苞(ほう)と黄色の花穂を茎の先端に咲かせます。薬用には、この時期に採取します。全草を天日で乾燥してシャキシャキとした手触りになったら、カビが生えないようにして保存します。どこにでも生え、よく見かける野草、いえいえ、元気な薬草で、生薬名「十薬」と称し、薬局方では地上部だけを刈り取り、使用します。主要成分のフラボノイドのクエルシトリンに利尿作用があります。特有の臭いのもととなるデカノイルアセトアルデヒドという成分に抗菌作用があるとされますが、臭いそのものは、生薬を乾燥すると揮散してほとんど無臭に近くなります。

 このように十薬はいくつかの効果があるようです。漢方処方として配剤される例は「五物解毒散」という処方以外ほとんどなく、十薬の葉や茎だけを利尿や、緩下(かんげ)の目的で使う民間薬としての使用が知られていて、センブリやゲンノショウコとともに日本の三大民間薬です。例えば乾燥した十薬を、大人の手で軽く一つかみしたものを一日分として、便通を整える目的で使われる方法などがあります。

 桜の花が散った後は、枝先に濃い緑の葉が茂り、新緑の風を届けてくれます。梅雨の前後に目にするドクダミの白い十字の苞と花穂の群生は、いつか見た夏空の下、暑さを感じさせない清々(すがすが)しい姿に出会えるかもしれないと、次の夏も待ち遠しい時間に変わります。


2022年5月31日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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