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薬と薬草のお話vol.65 シュクシャと縮砂(しゅくしゃ)

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.65 シュクシャと縮砂(しゅくしゃ)

薬用基原植物 Amomum villosum Loureiro var.
xanthioides T.L.Wu et S.J.Chen, Amomum villosum Loureiro var. villosum
または Amomum longiligulare T.L. Wu (Zingiberaceae)

 踏み台に登って手の届かないところに置いてあるおやつの缶。やっと手にしてポケットに入れたクッキー。あれ、知らない香りがします。外国のものかな?

 今ならわかります。スパイスの一つ、カルダモンの香りです。私たちが現在繁用している漢方生薬にもこのカルダモンの香りに似ている同属の生薬、「縮砂」があります。

 シュクシャは林間陰湿地に生育する多年草で、中国やベトナム、ラオス等の東南アジアが産地で、草丈は大きいものでは3メートルほどになるそうです。夏に果実をつけ、それを乾燥し果皮を取り除いた種子の塊を生薬「縮砂」と称します。以前、縮砂の塊を砕くと樟脳(しょうのう)のような強い香りがありました。好奇心で口にしてみると一日中、口の中がスースーしてしまったことを思い出します。

 この縮砂、芳香健胃薬としてCMなどでよく知られている漢方胃腸薬、安中散(あんちゅうさん)などにも配剤されています。少しかたい話ですが、基原植物の薬局方の定義が、2019年6月に現在広く流通しているものに改訂されました。生薬(医薬品)は、使用できる天然物の基原が薬局方で定義され、指標となる主成分の含有量の基準(指標成分含有量)が定められているので、品質や安全性が保たれています。縮砂が配剤された漢方処方としては、響声破笛丸(きょうせいはてきがん)等があります。中でも「香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)」は、六君子湯などに香りの良い生薬、縮砂と香附子(こうぶし)、藿香(かっこう)を加えた11味の生薬からなる処方で、体力は中程度以下、気分が沈みがちで頭が重く、胃腸が弱く、食欲がなく、みぞおちがつかえて疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすい方の胃炎、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐(おうと)などに使うと効果があるとされ、エキス製剤が販売されています。

 心が沈みがちなニュースがここ数年続いています。けれど梢(こずえ)の合間を通る風は次の季節を知らせてくれています。少し草木の芽吹きを探しに出かけるのも心の栄養になるかもしれません。元気を出しましょう。


2022年3月30日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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