薬と薬草のお話

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vol.62 桑と桑白皮(そうはくひ)と寅年(とらどし)

薬用基原植物 Morus alba Linné. (Moraceae)
2021年12月27

 歳末のイルミネーションをはずして、正月飾りに変わりはじめる頃、身の引き締まるような冷気を感じながら仕事場に着くと、薬局の棚も品ぞろえが徐々に変わっています。令和の今と違い昭和の頃は、手作りのおせち料理の色付けに使うクチナシの実、クワイの煮物のアク抜きに使うミョウバンなど。そして翌年の干支(えと)飾りを見ると、いよいよお正月に思いが走りだしていました。

 来年は寅年です。漢方の処方名にも干支にちなんだ「虎」の字のつくものがあり、例えば白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)、五虎湯(ごことう)で、力強い名前です。寒さが厳しくなるこれからの季節、強いせき込みに使う四つの薬味(麻黄〈まおう〉、杏仁〈きょうにん〉、石膏〈せっこう〉、甘草〈かんぞう〉)に、生薬「桑白皮」を加えると、「五つの虎」という名称に変わって、五虎湯となります。

 五虎湯は、比較的体力のある人向きの鎮咳剤(ちんがいざい)として、気管支の炎症に使われることがあり、漢方処方中、桑白皮の役目は、肺の熱を取って、せきを鎮め、むくみを取り去るというような目的で配剤されています。同じような使い方では他に清肺湯(せいはいとう)などがあります。

 現在薬用にする桑白皮は、基原植物マグワの根皮部分が使われています。採取は7月頃、採取後、水で洗い、天日乾燥させ、あまり印象にのこる臭いがしないものを使うと教わりました。

 幼い頃から身近に感じて育った薬局のお正月の風情を醸し出してくれるものにもう一つ、屠蘇散(とそさん)があります。

 屠蘇散の中に含まれる桂皮(けいひ)、陳皮(ちんぴ)、山椒(さんしょう)、年によっては丁子(ちょうじ)や大茴香(だいういきょう)などの香りを感じながら時を過ごしました。人の気配がなくなり出し、皆が帰ったあとわずかにのこる屠蘇散の香りが漂う静寂の時間が来ます。そして大みそか、一年の区切りをつけて、家への帰り道を歩き始めます。来年は、もっと良い年にしましょうね。

(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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