薬と薬草のお話

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vol.61 サフランと蕃紅花(ばんこうか)

薬用基原植物 Crocus sativus Linné (Iridaceae)
2021年9月29

 「ただいまあ、はい水栽培の球根、クロッカス」

 小さい頃、学校から持って帰った宿題です。毎日眺めていたら、白い根が一つ二つと出てきました。古いおもちゃ箱に容器が眠っていました。

 園芸植物のクロッカスの仲間にサフランがあります。古くからスパイスとして料理に使われていたサフランは生薬名「蕃紅花」と称され、ヨーロッパ南部から西アジアが原産地で、古代エジプトのパピルスにも記されているそうです。

 薬草としての歴史も古く、日本薬局方では薬用としての基原植物、サフランの花の柱頭(雌しべ)と定義しています。

 11月頃の花を待ち、花が盛りの当日開花した雌しべの真っ赤に色づいた部分だけを手でとって、日陰で風通しのよいところで乾燥させます。日本での歴史は新しく、江戸時代後期の古書中に洎夫藍(さふらん)、別名・蕃紅花の記載があっても、当時の本草家は生の植物を見ることはかなわず、明治19年に初めて栽培に成功しました。現在では大分県竹田市での栽培が有名ですが、薬用としての蕃紅花はヨーロッパなどからの輸入品がほとんどです。

 蕃紅花には、クロシンという黄色の色素や、鎮痛、鎮静、通経の作用があるとされるサフラナールが含まれており、手にしていると、指先が黄色くなります。薬効としては、婦人薬として単味(サフランのみ)で冷え性や生理不順などに0.5g程度、熱湯を注いで服用する方法もありますが、現在の漢方エキス剤中にはこの使用法は出てきません。

 季節は秋。朝の冷気が深まりを知らせても、今年は山路の色づきに誘われる外出にも躊躇(ためら)いを覚えます。それでも家にこもる鬱々(うつうつ)とした気分の転換に身辺整理を始めると思わぬ宝物が出てきました。高価な生薬や宝石ではないけれど、おもちゃ箱の自分が集めた植物標本や水耕栽培の道具は、それを残してくれた父母の顔が浮かび、懐かしく恋しい思いとともに次の冬に向かう自分の胸を温かくします。

(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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