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薬と薬草のお話vol.60 茴香(ういきょう)とフェンネル

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.60 茴香(ういきょう)とフェンネル

薬用基原植物 Foeniculum vulgare Miller (Umbelliferae)

 今年の夏は屋内で雨にうたれる草木の姿を思い浮かべる日が続きました。

 家で過ごす時間、台所の整理を始めると昔使ったスパイス、フェンネルの空き瓶が出てきました。蓋を開けると私にとってはどこか懐かしい香りが残っています。

 今では香辛料として親しまれているフェンネルは、生薬名「茴香」(別名・小茴香)と呼ばれ、セリ科ウイキョウ属の地中海沿岸原産の多年草です。日本国内でも栽培され、草丈の高い薬草で夏から秋に黄色い小さな花を咲かせ、秋に長さ8ミリくらいの、表面が麦わらのような黄緑色で、一見種のように見える果実を収穫して用います。

 日本には古い時代に渡来し、平安時代には「久礼乃於毛(くれのおも)」と呼ばれていましたが、いつしか漢名を日本読みにしてウイキョウの名になったようです。

 江戸時代の古書「本草図譜」に「豆州白浜村に野生あり」とあり、また貝原益軒の「菜譜」には薄荷(はっか)や山葵(わさび)などに続いて記されています。

 今日では、例えば家庭の胃腸薬の成分表に茴香の名前が出てきます。

 漢方薬中の「茴香」は、「安中散(あんちゅうざん)」という処方が代表的です。

 この安中散はやせ型で腹部筋肉が弛緩(しかん)する傾向の方が、胃痛や腹痛、胸焼け、げっぷ、食欲不振などの時に使い、その香りはアネトールなどの精油に由来します。

 親元を離れての学生時代、近くの薬屋さんに出かけ、店内の匂いを感じると不思議に落ち着いたことがあります。

 私にとってどうやら懐かしい匂いは薬の香り、ウイキョウもその一つだったのかもしれません。

 外出自粛を心がける今の時期は、身近な香りを見直すことで心が静まるかもしれません。人それぞれに安らぐふるさとの香りを探し出してみませんか。


2021年8月30日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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