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薬と薬草のお話vol.59 トウキと当帰

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.59 トウキと当帰

薬用基原植物 Angelica acutiloba Kitagawa
または ホッカイトウキ Angelica acutiloba Kitagawa var. sugiyamae Hikino (Umbelliferae)

 6月の街、雨後の雨傘干しを見ると、花の咲いた姿が「傘が開いたよう」と名付けられたセリ科の植物のアルファベットのつづりを思い出します。例えば夏から秋にかけて、開いた傘のように多数の白い小花をつけるセリ科の植物に「当帰」という生薬があります。

 「当帰」は主に国内、奈良や和歌山で栽培されたものをニホントウキ(ヤマトトウキ、オオブカトウキ)といい、基原植物として薬用に用い、昔から婦人病の代表的な薬とされてきました。全株に独特の匂いがあり、生薬として製剤化したものも主要成分リグスチリドの独特の香りがあります。昔、家に帰ると部屋中にいつもと違う香りがして、何が起こったのか、誰か具合が悪いのかと心配になったことがありました。亡母が「実母散(じつぼさん)」という振り出し薬を土瓶の中のお湯に振り出していて、当帰からの匂いだったのですが、今ではどこか懐かしく感じます。

 現在では様々な婦人薬の主要成分として当帰配合処方がエキス化されています。中でも「当帰芍薬散(しゃくやくさん)」は当帰をはじめ6種類の薬味からなり、疲れやすく足腰の冷えやすい方の貧血や倦怠(けんたい)感があるときに多用される代表的処方です。

 他にも、これからの時期「清暑益気湯(せいしょえっきとう)」は人参(にんじん)や黄耆(おうぎ)など9味の生薬からなり、血液循環を高める作用、鎮痛、補血作用などがあり、暑さによる食欲不振や下痢、全身倦怠、夏やせに使用されます。そのほか「補中(ほちゅう)益気湯」や「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)」などにも当帰が使われ、体力低下や食欲不振に使用されます。

 昔、意味も考えず暗記した植物名、当帰の属名部分アンジェリカは、英語のエンゼルの語源にも派生するのだそうです。

 「ウンベリフェラーエ、ウンベラ、アンブレラ、開いた傘、散形花序、セリ科」、今一度つぶやいて、天使を呼んで時の流れを戻してみましょうか。


2021年6月25日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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