薬と薬草のお話

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vol.57 ケイヒと桂皮

薬用基原植物 Cinnamomum cassia Blume (Lauraceae)
2021年3月25

 桜の南向きの枝先で、堅く閉じたつぼみが開き出しました。

 それから一見枯れ木のような枝先に、白い大きな花をつけたコブシ(辛夷)も目に入ってきます。

 コブシの開花を見ながら思い出すのが、花粉症の鼻づまりに使うことがある、漢方処方の葛根湯にコブシのつぼみを加えて、私たちの国で経験的に使われてきた薬草や桂皮(けいひ)の刻み生薬、粉末の香りのことです。

 桂皮は西洋、東洋の区別なく古くから薬用に使われ、漢方では「千金方(せんきんほう)」「傷寒論(しょうかんろん)」などの処方に桂枝(けいし)、桂心(けいしん)などの名称で出ていて、独特の香りを持つ要薬の一つです。

 日本では「正倉院種々薬帳」に見られる桂心の名で扱われていました。現在、日本の薬用の「桂皮」は、中国やベトナムのものが主に使われており、桂皮を配剤する漢方エキス剤の中では3割ほどがこの桂皮を含んでいます。処方名が桂枝と付いている(例えば桂枝茯苓丸ぶくりょうがん、柴胡桂枝湯さいこけいしとうなど)ので、植物の樹皮ではなく枝ではないかと疑問に思われる方もおられると思いますが、現状では桂皮を使っていることが多いです。

 特にこれからの時期に思い出すのが、古典書(傷寒論)処方の葛根湯に、日本で経験的に2つの薬味を加えた葛根湯加川芎辛夷(かせんきゅうしんい)です。これは鼻閉(びへい)(鼻づまり)や慢性鼻炎の処方として葛根湯に含まれる桂皮など7味の薬草に、辛夷と川芎を加えて構成され、現在は製薬会社がエキス化し繁用されています。

 花粉の飛散量が気になり出す時期、コブシ(辛夷)の花を見ると、コブシや桂皮を含んだ処方を伝え続けてきた古人の発想に思いが巡ってしまいます。

 それとも、コブシの清楚(せいそ)な白い花と清明の空を見ても薬のことを思い出す自分には、職業病を治しなさいという自然からの知らせが来ているのかもしれません。

(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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