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薬と薬草のお話vol.56 カンゾウと甘草

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.56 カンゾウと甘草

薬用基原植物 Glycyrrhiza uralensis Fischer または Glycyrrhiza glabra Linné (Leguminosae)

 暦が静かなお正月から立春へと過ぎる間で、年の数の豆が多すぎる節分を越えました。以前、節分の夜には亡母の手伝いで大豆を煎りました。職場でカンゾウという生薬を手にしたとき、懐かしさが込み上げました。節分豆の匂いに似ています。

 カンゾウ(甘草)はマメ科(Leguminosae)の植物で野生品を使用し、現在日本でエキス化されている漢方処方の7割以上に配合される生薬です。

 また西洋でも東洋でも古代から薬としてだけでなく食品の甘味料などに使用され、私たちの普段の生活に深く入り込んでいる薬草の一つです。日本では、2〜3年の根やストロン(地上近くをはって伸びる茎)を乾かしたものを使用します。多用される薬草なので、輸入品に頼るだけでなく、日本でも東日本大震災の被災地の復興支援の一つとして栽培の試みが続いています。

 甘草の主要成分にはグリチルリチン酸という成分が含まれており、多量に服用すると浮腫や低カリウム血症などの副作用が表れることがありますので注意してください。

 古典書の甘草含有の処方では、例えば芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)のように本来急迫した症状を改善することが出発でした。

 他の処方例では、小建中湯(しょうけんちゅうとう)(5味または6味、芍薬、甘草、桂皮〈けいひ〉、大棗〈たいそう〉、膠飴〈こうい〉、生姜〈しょうきょう〉)という処方が、不安や緊張が続く受験期、普段から胃腸が弱く疲れ気味の方の疲労倦怠(けんたい)や慢性胃腸炎を訴える場合に使われることがあります。

 さらに古典書には、甘草を煎って(修治〈しゅうじ〉)炙甘草(しゃかんぞう)として使うことがあり、体力の低下した方の動悸(どうき)や息切れに使う漢方薬として製品化したものが市場にでています。

 薬の効果を説明するのが仕事の自分なのですが、香ばしく煎った節分豆の匂いを思い出すとき感じた私の胸の動悸には効きそうに思えました。


2021年2月26日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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