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薬と薬草のお話vol.55 キハダと黄柏(おうばく)

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.55 キハダと黄柏(おうばく)

薬用基原植物 Phellodendron amurense Ruprecht
または Phellodendron chinense Schneider(Rutaceae)

 色彩の乏しい冬の散歩道では、肌に感じる寒さと葉を落とした高い樹木の姿に、静寂が心の中に入り込んできます。冬空に向かってひときわ高い所へ枝をのばす木々を仰ぎ見ると、様々な薬用として使われてきた樹木、薬用樹のことと、話し合った仲間の声も浮かんできます。

 例えば、キハダ(黄肌)です。キハダは東アジアや日本各地の山地に自生するミカン科の雌雄異株の落葉高木です。夏、黄緑の小花をつけ、コルク質の外側の表皮の下に内皮があり、これが鮮黄色ですのでキハダと言われ、晩春から初夏のころ樹皮をはがして内皮を乾燥したものを、生薬名「黄柏(オウバク)」として使います。

 オウバクの主要成分はベルベリンで、特に内皮の黄色は色が濃いほどベルベリンの含有量が多いといわれ、化学的定量結果と一致するそうです。この黄柏由来の成分、塩化ベルベリンは健胃整腸医薬品として今でも市販されています。

 また民間薬としてオウバクエキスは、関西では「陀羅尼助(だらにすけ)」、鈴鹿山脈より東側では「百草(ひゃくそう)」と呼ばれ古くから使われてきました。他にも粘液性物質を生かして、打撲傷や関節痛などに外用(湿布剤などに)することがあり、これは一種のオウバクの消炎作用かと思います。

 他方、漢方処方に配剤されるオウバクは、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)、荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)、清暑益気湯(せいしょえっきとう)、滋腎通耳湯(じじんつうじとう)などがあります。中でも近年製薬会社がエキス化した「滋腎通耳湯」は、オウバクをはじめ当帰(とうき)・地黄(じおう)・川芎(せんきゅう)・芍薬(しゃくやく)・柴胡(さいこ)・黃芩(おうごん)・香附子(こうぶし)・白芷(びゃくし)・知母(ちも)の10種類の生薬からなる処方で、ご高齢の方の耳鳴りや聴力低下、めまいなどに効果があるとされています。

 これらの処方中でオウバクの役目は、漢方の言葉でいう清熱(せいねつ)(炎症を治す)の目的で配剤されています。

 薬草を覚えるのには見るだけでなく、においや味で覚えることも必要で、オウバクは特有のにおいと色以外に強い苦味があります。「良薬は口に苦し」なのかもしれません。


2021年1月26日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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