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薬と薬草のお話vol.51 人参(にんじん)とオタネニンジン

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.51 人参(にんじん)とオタネニンジン

薬用基原植物 Panax ginseng C.A. Meyer(Panax schinseng Nees)(Araliaceae)

 夏から秋にかけての草木を思うとき、園芸植物としても親しみのある桔梗(ききょう)が涼しげな佇(たたず)まいを披露してくれる季節になりました。花の涼しげな姿と異なり桔梗の根は太くしっかり根付いています。昔この根を掘り起こしたときに思い出したのが、身近な草木ではないのですが、薬草の話では避けて通ることのできない生薬「人参」があります。

 薬用としての人参は、日本ではウコギ科のオタネニンジンを基原植物と定義しています。中国北東部から朝鮮半島原産とされる多年生草本植物で、日本には自生せず、栽培して用います。初夏に散形状に淡黄褐色の花をつけ、果実は夏に赤く熟します。薬用には4~5年経た根を軽く湯通しし、陽乾して用います。

 日陰を好む、連作ができないなど栽培が難しく、高価な生薬ですが、漢方では健胃整腸、強精、鎮吐、止瀉(ししゃ)などの効果を来して多くの処方に配剤されます。

 現在エキス化されている代表的処方には人参湯、人参養栄湯(ようえいとう)、六君子湯(りっくんしとう)、続命湯(ぞくめいとう)、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)などがあります。中でも人参湯は人参、乾姜、甘草、白朮からなり、手足が冷えているときや冷たいものを食べたとき、また強い寒冷環境の中、急に冷えておなかをこわしたときに効果的です。

 また六君子湯や補中益気湯などの処方中において、人参は漢方の言葉で補気健脾(けんぴ)と表現される生薬として用いられています。

 私の初めての生薬人参との出会いは、お土産として亡父が持ち帰ってきた箱の中に赤い紙帯を巻いた白い植物の根でした。

 その後煎じ薬の調合に携わった時の人参は、根を輪切りにしたもの、角切りに刻んだものなどでしたが、手にすると他の生薬と違い人参独特の匂いがありわずかに甘く感じ、先輩からは輪切りの方が高級だと教えられました。貴重な生薬の一つなので、様々な商品名で販売されていますが、無理をして最高級品を探したり、また逆に安価すぎるものなどを選んだりせずに、医薬品としての表示を確認し、適切な価格帯のものを選ばれることが良い生薬選びにつながるように思えます。


2020年8月29日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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