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薬と薬草のお話vol.50 酸棗仁(さんそうにん)と サネブトナツメ

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.50 酸棗仁(さんそうにん)と サネブトナツメ

薬用基原植物 Ziz yphus jujuba Miller var. spinosa Hu ex H.F. Chou(Rhamnaceae)

 身近な草木の移り変わりも不安なニュースに心痛み見過ごしがちの日々ですが、季節は梅雨から夏に移ろうとしています。ナツ、ナツメ(夏芽)のことが浮かぶと、続いて思い出すのはナツメの原種、サネブトナツメのことです。

 サネブトナツメは東南ヨーロッパから中国に分布、天山南路の雨の少ない道筋のオアシス周辺に点々と生えていたもので、このサネブトナツメを改良してトゲを少なくしたものがナツメだそうです。棘の道はバラの棘の道ではなく、サネブトナツメのトゲの道のことをいうのだと聞いたことがあります。日本には野生種がなく薬草園などに見られることがあるクロウメモドキ科の落葉低木で、ナツメのように甘みのある果肉(食べるところ)は少なく、酸味がある果実を秋に取って種子を生薬名・酸棗仁と呼んで使用します。

 酸棗仁は漢方処方中では、養心安神(鎮静、抗精神不安)の薬味として配剤され、今日の漢方エキス剤としては酸棗仁湯(とう)、帰脾湯(きひとう)、加味温胆湯(かみうんたんとう)などがあり、疲れがひどく、不安や心身が弱っている方に用いられます。

 例えば酸棗仁湯は酸棗仁・知母(ちも)・川芎(せんきゅう)・茯苓(ぶくりょう)・甘草(かんぞう)の五味からなり、体力が消耗しきっていて眠れないときに使うことが多いです。ただし化学成分の不眠薬と比べると即効性はなく、数日服用後の効果に思えます。またイライラ感が強く高血圧気味の方には適しません。体質、体調の見極めによって、穏やかな効果が期待できる処方です。酸棗仁の含有成分としては、トリテルペン類やサポニンなどが報告されています。

 今の時期はいつもよりストレスや不安な要素が多くて、心を強く持つことがつらくなる時があるかもしれません。そんな時は自分を責め過ぎないで、棚上げにしていた古書を引き出し、古人の知恵を探究してみませんか。元気を出しましょう。


2020年7月29日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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