薬と薬草のお話

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vol.49 大棗(たいそう)とナツメ

薬用基原植物 Ziziphus jujuba Miller var. inermis Rehder (Rhamnaceae)
2020年6月28

 身体にこたえる湿気の梅雨も、傘をさす足もとから植栽のクチナシの香りに励まされる朝が始まり、梅雨明け、夏を心待ちにする季節に入りました。夏といえば草木の名を覚え始めた頃、語呂合わせかなと思ってしまった草木、ナツメのことを思い出します。

 ナツメの原産地は中国とされ、日本では古来伝わるクロウメモドキ科の落葉低木、生薬名大棗と称します。初夏、葉腋(ようえき)に集散花序(しゅうさんかじょ)の淡黄色の小花をつけ、はじめは緑色、次に黄褐色、初秋にはつぶらな赤い果実を収穫し、天日乾燥、または湯通しした後、乾燥したものを使用します。

 煎じ薬調製の時、刻んだ大棗は特に夏場に固まりやすく、口にしたくなるような甘みを感じるのですが、保存状態によっては木槌(きづち)で砕きたくなるような固まりになることがあり、保存に工夫が必要です。

 江戸時代の古書、大和本草に「棗(ナツメ)夏芽を生ず故にナツメと言う」とあり、他の木々の春の芽吹きより遅れ、夏になって花芽が出るため、この名がついたという説があるそうです。

 日本の漢方処方中で大棗は汎用(はんよう)される薬味で、甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)、小柴胡湯(しょうさいことう)、麦門冬湯(ばくもんどうとう)などがあります。これからの季節だと、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は夏バテ、食欲不振や疲労倦怠(けんたい)感が強いときに服用すると効果的です。大棗は、生姜(しょうきょう)や甘草(かんぞう)とともに、補気健脾(ほきけんぴ)(消化機能の低下を治す)を目的に配剤されます。

 今年は昔見過ごしていたものを振り返る時間が与えられました。息災を願う夏越(なご)しの茅(ち)の輪(わ)くぐりなど、古人の知恵や夏に向かう毎日の過ごし方に改めて納得させられました。遅れて芽を出すナツメが、爽やかな浅緑色の葉から淡黄緑色の小花を出す姿は良いです。さあ、元気を出して前に進みましょう。

(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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