文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

薬と薬草のお話vol.48 沢瀉(たくしゃ)とサジオモダカ

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.48 沢瀉(たくしゃ)とサジオモダカ

薬用基原植物 Alisma orientale Juzepczuk (Alismataceae)

 梅の実が葉陰から姿を見せ、柑橘〈かんきつ〉系の花の香りが漂う季節です。

 昨年まで通った北摂の山辺も、ウツギの白花と共に田植えの済んだ水田が広がり、次はコアジサイの群生とササユリの香りを待つ時期に入ります。水田や湿地には、多年生水草、オモダカ科のウリカワやオモダカが力強く緑の葉を茂らせています。そのほか、近年はおせち料理に姿を見せることが少なくなりましたが、「芽が出る」として食されてきた縁起物、子供に授乳する慈母〈じぼ〉に似ているとして『慈姑』と書くクワイもオモダカ科です。

 薬草としてのオモダカにはサジオモダカ(生薬名沢瀉)があり、夏から秋にかけて水面から花茎を出して小花をたくさん付けます。薬用には肥大した塊茎を使い、周皮〈しゅうひ〉をとって乾燥させ、形が大きく、実際口にするとわずかに甘みを感じる物が良品とされます。しかし、現在は日本産は少なく輸入品が主流です。

 漢方処方では沢瀉は単味では用いず、例えば「金匱要略〈きんきようりゃく〉」という古典書には沢瀉と朮〈おけら〉(蒼朮〈そうじゅつ〉または白朮〈びゃくじゅつ〉)の二味を煎じて服用する沢瀉湯〈たくしゃとう〉があり、現在エキス化されています。季節の変わり目に出やすい頭痛やめまい、乗り物酔いなどに服用すると、切れ味の良い効果が期待できます。あまり体質にこだわることなく服用できる良い処方です。

 そのほか沢瀉が配剤されている処方は多く、五苓散〈ごれいさん〉(沢瀉、猪苓〈ちょれい〉、茯苓〈ぶくりょう〉、朮、桂枝〈けいし〉)を始め、猪苓湯、八味地黄丸〈はちみじおうがん〉、当帰芍薬散〈とうきしゃくやくさん〉など、漢方の言葉でいう「利水剤〈りすいざい〉」や「止渇剤〈しかつざい〉」として配剤され、水滞が原因と考えられる体調不良に欠かせない生薬です。現在では沢瀉の穏やかな消炎作用の研究も注目されています。

 今春は山ほどある大事な仕事を横にして、なぜか手の届く道具の手入れ、掃除の時間が加わりました。心静めてキッチンを眺めるとケトルの淡褐色の油汚れを発見。雑巾で拭き始めるとピカピカになり、胴体に自分の顔が映ります。

 磨けば光るこの時間、さあ部屋に風を入れて、明るい日差しのなか涼風を楽しむ次の季節を待ちましょう。


2020年5月29日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

トップへ ページの先頭へ