薬と薬草のお話

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vol.45 ウスバサイシンと細辛(さいしん)

薬用基原植物 ウスバサイシン Asiasarum sieboldii F.Maekawa(Aristolochiaceae)
2020年2月27

 草木はまだ冬の深い眠りから目覚めることなく、じっと耐えているような時、気力を奮い立たせて今は亡き父の車椅子を押しながら山里の道を歩み出しました。

 けれどおのずとうつむきがちで、枯れ葉を落としきれていない雑木林の根元の、地面すれすれにある緑の葉に目をひかれます。父が、「サイシンだ」と声をあげました。ウスバサイシンは本州や九州の山あいの陰地に自生するウマノスズクサ科の多年草で、暗紫色の地味な花を、樹木などが地面と接する地際にうつむきがちに咲かせます。

 薬用としては生薬名を「細辛」といい、その根及び根茎のみを使用します。

 実際煎じる前の細辛を手にしてみると、特徴のある精油成分の匂いがあり、この匂いが強くて辛味のあるものが良いとされています。

 例えば、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)や麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)、苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)、立効散(りっこうさん)などは現在でもエキス化されたものが繁用されています。

 中でも麻黄附子細辛湯は、麻黄、附子、細辛の3味からなる処方で、比較的体力の低下した人の風邪症状、悪寒を伴う微熱症状などの改善を目標にして、ご高齢の方や身体の弱い方の感冒や気管支炎に使用することができます。ただし薬味数の少ない処方ほどその効果がハッキリしていますので、長期の連用は慎重に判断する必要があります。

 春まだ遠く、日々の営みすら億劫(おっくう)になりそうな冬空です。

 視線を下げて見た緑のしげみ、身体をかがめて葉をかき分けて見ると、地味な暗紫色の小さい花、百花爛漫(らんまん)の春とは競う気配がない姿のウスバサイシンに出会うかもしれません。

 草木は黙々と次の季節への芽吹きの準備をしています。

 私も元気を出しましょう。春を待ちましょう。

(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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