薬と薬草のお話

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vol.44 松とマツホドと茯苓(ぶくりょう)

薬用基原植物 マツホド Wolfiporia cocos Ryvarden et Gilbertson(Poria cocos Wolf)(Polyporaceae)
2020年1月30

 冬が運ぶ冷気は草木に厳しさを届け、木々の枝葉をそぎ落とします。そんな冬景色の世界では、松の緑が際立ちます。

 和漢薬の世界では、松にまつわる生薬は「マツホド」です。けれどマツ属の根に着生している塊状のものなので、掘りあげないと普段は目にすることのないものです。

 基原植物和名マツホドは生薬名を「茯苓」といい、この名称は元々「茯霊」と書き、古人は松の神霊が結実したものと伝えたようで、サルノコシカケ科の菌の菌糸が絡み合った菌核の一つです。伐採後3~4年たった松の根を掘り起こせば、たいてい根に茯苓が見られると教わりました。

 茯苓を探すには先のとがった鉄棒を、茯苓のありそうな場所の地面に突きさします。「茯苓突き」といわれ、昭和30年頃まではこれを職業にする人がいたと国内での生産記録が残っています。1970年代からは大量生産・安定供給のため中国からの輸入品に置き換えが始まりました。一方、中国ではその頃から人工栽培の取り組みが始まっています。

 「茯苓」の処方中の役目は利水薬(りすいやく)として、漢方でいう水毒症の薬で漢方方剤への利用は多く、桂枝(けいし)茯苓丸や五苓散(ごれいさん)が代表例です。「五苓散」は茯苓を始め沢瀉(たくしゃ)、蒼朮(そうじゅつ)、猪苓(ちょれい)、桂皮と五つの生薬で構成され、口の渇きがあり尿量が減り、むくみや吐き気がある時、めまいや頭痛などを伴う時に使いやすい処方です。茯苓は化学成分由来の利尿剤と比較すると弱い作用ですが、尿細管の再吸収を抑制し、ミネラル類の排出量が増加するようです。

 2013年、イギリスで発表された論文にAI時代の到来で「消えていく職業」が話題になりました。1970年、高度成長期に入った日本ではマツホドの採集「茯苓突き」が「消えてしまった職業」になりました。

 全てがスピードを競う現代の私たちには、松の根の下に棒を突き立てて、自分の感覚で、奇怪で、神聖な形のマツホドを探す時間、スローな時の流れが羨ましく思えます。

(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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