薬と薬草のお話

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vol.42 イネとコウベイ

薬用基原植物 Oryza sativa Linné(Gramineae)
2019年11月28

 以前、コウベイという響きの生薬名を耳にして書物を繙〈ひもと〉きました。その生薬は楕円〈だえん〉形を呈し、やや扁平〈へんぺい〉で長さ4~6ミリであり、外面は半透明で淡黄褐色~淡褐色を呈している。一端はわずかにくぼみ、白色の胚が認められる。他端には花柱の跡に由来する褐色の小点が認められる。表面には数本の長軸方向に走る溝がある……。うーん、何?イネ科のイネ、コメ、玄米でした。

 日本には縄文時代に渡来したといわれるイネ。実は普段オコメとしてとても身近にあるこの植物も漢方薬味の一つで、薬用にはもち米ではなくうるち米の方のえい果(玄米)を、生薬名コウベイ(粳米)と称して漢方処方で用います。

 オコメは私たちの食生活に欠かせないものですが、栄養学の炭水化物やカロリーの視点とは異なり、薬用生薬の役目は、漢方で表現される身体部位の脾〈ひ〉、胃に作用して「補気」=気を補うこと。脾、胃を元気にして潤いをあたえることを期待して使います。

 例えば、現在エキス製剤としても汎用〈はんよう〉されている麦門冬湯〈ばくもんどうとう〉や白虎加人参湯〈びゃっこかにんじんとう〉など数処方に配剤されます。白虎加人参湯(知母〈ちも〉・石膏〈せっこう〉・甘草・粳米・人参)は、白虎湯に人参を加えた処方で、消渇〈しょうかつ〉(口の渇きを治す)や手足のほてりの緩和に使用され、粳米と石膏で胃や脾を補って、消化器系統の「補気」や「滋潤〈じじゅん〉」という効果が期待されています。

 麦門冬湯(麦門冬・半夏・粳米・大棗〈たいそう〉・人参・甘草)では、人参と粳米が胃に潤いを与え、麦門冬は肺に潤いを与えて、鎮咳去痰〈ちんがいきょたん〉の作用を期待された処方と考えられます。

 私の身近な散歩道は落葉が舞い始め、刻々と秋が深まっています。北摂の山辺に遠出をすると、稲田はもうすでに収穫を終え冬支度を始めています。

 あまりにも身近すぎて、当然のこととして食しているイネ、書物を閉じてオコメに感謝。さてご飯をいただきましょう。元気を出して次の季節を楽しみましょう。

(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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