薬と薬草のお話

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vol.41 ヒナタイノコズチと牛膝(ごしつ)

薬用基原植物 Achyranthes fauriei Leveillé et Vaniot または Achyranthes bidentata Blume(Amaranthaceae)
2019年10月28

 秋が深まり草木は様々と姿を変え、冬の準備を始めています。艶やかな紫色のムラサキシキブの実、山路の足もとは細い茎をのばすキンミズヒキ、緑の茂みに近づくと、幼い頃に名前を覚えた「ひっつき虫」、小さな草の種(果実)、イノコズチです。

 イノコズチは、本州・四国・九州の日当たりの良い山野や路傍に見かけることができる、繁殖力旺盛なヒユ科の多年草で、薬用にはヒナタイノコズチを基原植物に規定しています。

 晩夏から初秋にかけて地上部が枯れ始める頃に根を掘り取り、水洗いし、乾燥させたものを薬名「牛膝」と称します。

 単独で使うことはなく、例えば現在は繁用処方の「牛車腎気丸〈ごしゃじんきがん〉」に配剤されています。

 「腎気」というのは、老化に伴い減少するものを表した漢方の概念で、現代医学での加齢に伴う筋力の低下・筋肉量の減少「サルコペニア」も、腎気の減少として考えることもできます。この「腎虚じんきょ」を補うための補腎剤が「八味地黄丸はちみじおうがん」や「牛車腎気丸」で、後者は八味地黄丸の八味の構成生薬に「牛膝」と「車前子しゃぜんし」を加えたものです。

 体力が低下し、疲れやすく腰から下が冷えやすい方のしびれや下肢の痛み、むくみ、排尿障害などに効果的で、頻尿、腰痛や下肢痛などに使用します。

 秋、ハイキングに行くとコートやスカートによく小さな草の実をつけて帰ってきます。それを取ると、ひっつき虫の一生を思いだします。

 「動けない草木は、種子がその場にとどまり続けると繁殖場の場所取りを起こすのが宿命。イノコズチもヒトやペットのひっつき虫になって新天地へ旅立つ、自立の話」など、おとぎ話を聞くように、追憶のアルバムのページが広がります。

 それとも疲れた足取りはやめ、気力を出して前へ進めと諭されたのかな。

(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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