薬と薬草のお話

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vol.40 ハトムギとヨクイニン(薏苡仁)

薬用基原植物 Coix lacryma-jobi Linné var.mayuen Stapf(Gramineae)
2019年9月25

 昼と夜が入れ替わり、静けさを楽しむかのような涼しい虫の音に気付くと、暦は秋分を過ぎ、寒露〈かんろ〉へと進んでいます。季節を違〈たが〉えない虫の声を傾聴、胸に秋空のもと黄金色に輝く稲穂の景色が浮かびます。

 薬草の世界でも、雑穀と分類されている中のイネ科の植物、ハトムギもこの頃に季節を告げるよう頭〈こうべ〉を垂れはじめます。

 ハトムギは中国南部からインドシナ半島を原産とする一年生草本で、日本への渡来時期は奈良から江戸時代まで諸説あるようです。今も日本の畑でも栽培されていますが、ラオスやタイから大量に輸入されたものが健康茶などの食品原料になります。薬用には脱穀した実を生薬、ヨクイニンと言い、殻のついたままの実をハトムギといいます。江戸時代の古典、貝原益軒の「大和本草」では、美肌とかイボ取りなどの庶民の間で行われていた療法を紹介しています。

 現代の漢方エキス薬としては桂枝茯苓丸加〈けいしぶくりょうがんか〉薏苡仁、麻杏薏甘湯〈まきょうよくかんとう〉、薏苡仁湯などに配剤され、例えば、桂枝茯苓丸加薏苡仁は、比較的体力がある方のしみ、肌あれ、にきび、血の道症に用いられます。ヨクイニン単独でイボや皮膚の荒れに用いることもありますが、その有効成分はまだ特定されていません。

 他方、家庭薬などでは、ハトムギとしての民間療法、美肌やイボ取りに使用されることがあり、ヨクイニン単独の作用機序は、NK細胞活性と関係し、尋常性疣贅〈ゆうぜい〉(イボ)を消退させるのではないかという報告もあります。

 所用で繁華街、地下道を歩きました。通りの商品ディスプレーに見覚えのある植物、ハトムギのシルエットが添えられていました。

 季節のない街、昼夜の区別がない照明は、秋風を身にまとった草木の姿への思いをより一層募らせます。

(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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