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薬と薬草のお話vol.39 ゲンノショウコと玄草

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.39 ゲンノショウコと玄草

薬用基原植物 Geranium thunbergii Siebold et Zuccarini(Geraniaceae)

 夏も佳境、季節が巡り、阿波おどりのニュースが流れる頃になると、四国の山間部での民間調査に記録されていた草木、ゲンノショウコのことを思い出します。「ゲンノショウコ(現の証拠)」、通称玄草とも呼ばれる薬草です。

 ゲンノショウコは日当たりの良い山野や道ばたにごく普通にみられるフウロソウ科の多年草で、日本の三大民間薬の一つでもあります。主な成分はタンニン(ゲラニインなど)で葉と茎の全草に含まれ、タンニン含量は6~8月の開花期に多くなるので、夏に収穫するのがよいとされています。薬用としては、地上に出ている葉と茎の部分だけが使われます。

 漢方処方としては使いませんが、地上部を乾燥させたものを刻んで、健胃、便秘や腹痛に、民間薬として汎用(はんよう)されていました。

 大人の手で軽く一掴(つか)み(20~30グラム)を煎じ、薬やお茶代わりに飲用しました。元々は江戸時代後期、貝原益軒の「大和本草」に初めて記され、次第に定着した伝承で、益軒は「漢方生薬の古典書、本草にこの功のせず」と記し、下痢止めに用いるのは、日本発祥の使い方です。特に下痢止めとして服すれば「タチマチナオル」と伝えられ、その名も「現の証拠」と称されていますが、調査の結果では「イシャイラズ」とも記録されています。

 今でも製薬会社が腸粘膜の保護を目的に、整腸剤の乳酸菌成分や他の生薬とともに配剤された丸剤が、家庭薬として市販されています。

 遺伝情報から最適な薬を選択することが可能な現代、伝承からくる民間薬などは時代と共に消え去っていくのかとも思います。

 が、西洋薬にも漢方薬にもない、ゲンノショウコ。日本発祥の薬草の知恵は、風化せぬよう記録・保管したいです。

 亡父が書き残した文章に「夏、ゲンノショウコの花、白や紅色の小さな可憐(かれん)な花が満開になる、私の身近、大阪千里にもたくさん生えている」と記されていました。

 今の千里に玄草を見かけることはできません。それでも玄草を思い出すのは、その可憐な紅色、白色の小花のことを話しあった方々との穏やかな思い出とつながっているからかもしれません。


2019年8月29日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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