薬と薬草のお話

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vol.37 ミシマサイコと柴胡(さいこ)

薬用基原植物  Bupleurum falcatum Linné(Umbelliferae) 
2019年6月29

 以前、薬草栽培を兼業しているという山里の農家を見学したことがあります。薬草、サイコの栽培と聞いて胸をときめかせたのですが、畑の片隅に栽培されている草丈40~50cmほどのヒョロッとした地上部は地味な草姿でした。

 サイコという名称は普段の生活では聞き慣れず、むしろ生け花やフラワーアレンジメントになじみのある方は、ツキヌキサイコの方が親しみのある植物かもしれません。けれど生薬の柴胡はセリ科ミシマサイコ属のミシマサイコを基原植物として、その根の方を乾燥したものを使用します。

 昔は日本各地の山野に自生していたのですが、現在は絶滅危惧種で、植物分類学的に変異が多いといわれています。特に江戸時代には静岡県三島付近で採れるものが良品とされ、東海道の旅人がお土産物として購入する風習もあったそうで、植物名の由来でもあります。柴胡は輸入品よりエキス分の多い日本産が良質です。主要成分はサイコサポニンで、詳細な薬理実験によって強い抗炎症作用などが証明されています。

 漢方薬やエキス剤に親しみのある方は、ご自分の薬箱を眺められると成分表示の中にサイコと表示されているものを見つけられると思います。例えば、漢方の表現に「湿邪」という言葉がありますが、ジメジメする梅雨や夏の湿気からくる頭痛やめまい、食欲不振などの消化器症状、水分代謝なども悪くなって体調を崩したときなどには、柴苓湯(さいれいとう)や補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などを用います。特に雨の前日の頭痛、頭が重たい、締め付けられるように鈍く痛む、めまいがするときには「柴苓湯」が効果的です。

 花屋さんに行くと、美しい花束の中に他の花の引き立て役のように、ミシマサイコ属のツキヌキサイコの黄緑色の葉と花が添えられている姿を見かけます。

 そしてミシマサイコ、柴胡は漢方の中では「主薬」と呼んでもよいほどの、人に役立つ植物です。

 花の姿も草木の姿も地味で目立たないのですが、柴胡は他の生薬にない役目を期待されて配剤されています。それゆえ現在では、由来が確かで性質の優れたミシマサイコの種苗確保のため組織培養、クローン苗の作出、国産品の供給なども試みられています。

 目立たぬ草木ですが、先人の知恵を大切に伝承したいです。

(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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