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薬と薬草のお話vol.36 カラスビシャクと半夏(はんげ)

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.36 カラスビシャクと半夏(はんげ)

薬用基原植物 Pinellia ternate Breitenbach(Araceae)

 朝、通勤路端のわずかな茂み、昨年と同じ姿でスイカズラのツルが白と黄色の花をつけると、いよいよ浅い緑葉、濃い緑葉をスルリとくぐった風薫る季節が始まります。

 少し遠回りをして草むらの足もとに目をやると、緑葉の中から背を高くして伸ばしているように、カラスビシャクが天に向かってヒョロヒョロと緑の葉(仏焔苞〈ぶつえんほう〉)を伸ばしています。

 カラスビシャクは中国、韓国、日本のそこここに自生する多年草で、今の時期から、サトイモ科(ミズバショウなど)特有の緑色の面白いかたちの花に見える総苞を開きます。 

 このカラスビシャクの塊茎(球茎)のコルク層を取り除き、一晩水につけたあと乾燥、場合によってはショウガを加えた水で修治〈しゅうじ〉したものを「半夏」と称して薬用にします。

 現在普及している漢方エキス処方中、半夏は60処方以上に配剤されています。

 例えばこれからの時期に繁用される漢方では、六君子湯〈りっくんしとう〉(半夏、生姜、茯苓〈ぶくりょう〉、白朮〈びゃくじゅつ〉、陳皮〈ちんぴ〉、人参、大棗〈たいそう〉、甘草〈かんぞう〉)は、疲れやすく朝寝起きの悪いとき、食欲にムラがあるなどの食欲不振や吐き気に効果的です。また半夏瀉心湯〈しゃしんとう〉(半夏、黃芩〈おうごん〉、黄蓮〈おうれん〉、乾姜〈かんきょう〉、人参、大棗、甘草)はみぞおちがつかえて、おなかが鳴り、軟便、下痢傾向があるときに使うと効果的です。

 ただし構成生薬を見ていただくとわかるように、同じ生薬が重複する場合があり、2処方以上の漢方薬を服用される場合は、含有生薬の重複に注意されることをおすすめします。

 夕べの帰路、私もカラスビシャクに倣って空を見上げると、緑の濃い木々のシルエットから夜風が迎えてくれます。

 おまけに空に浮かびながら道連れのようにどこまでもついてくる朧〈おぼろ〉月が、「大丈夫、澱〈よど〉みそうな心、今日の疲れは濾過〈ろか〉しなさい」と諭されます。明日に備えましょう。


2019年5月28日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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