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薬と薬草のお話vol.31 サンシュユと山茱萸

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.31 サンシュユと山茱萸

薬用基原植物 Cornus officinalis Siebold et Zuccarini(Cornaceae)

 秋から冬へ色鮮やかな紅葉が葉を落とし、ハナミズキの枝先に新しい春に向かって支度を始めている小さな赤い実を見つける時がきました。

 人は草木の実を見ると利用しようとするのかミズキ科(Cornaceae)にも、薬用とされる「サンシュユ」「西洋サンシュユ」があり、西洋サンシュユの方は主に東ヨーロッパで実がコーネリアンチェリーと呼ばれ、イランやトルコなどでは薬用酒にされるそうです。

 一方、日本薬局方生薬としては「サンシュユ(山茱萸)」の秋に熟す実(偽果)から種子(真正果実)を除いたものを用います。

 現在、山茱萸を含む代表処方は、八味地黄丸(はちみじおうがん)、六味丸(ろくみがん)、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)などです。

 中でも「牛車腎気丸」は、八味地黄丸に二味(牛膝と車前子)を加えたもので、主に下肢の浮腫やしびれ、つまずきやすいなどの兆候があり、冷えて重だるく、夜間排尿がある場合などに効果的です。三つの処方には共通して、地黄、山薬、山茱萸が配剤され、山茱萸の役目は余分な汗や排泄(はいせつ)物などを、収斂(しゅうれん)して治す役目、「固渋」という薬効を持つとされています。

 晩年、下肢の衰えた車椅子の父と、椅子に座った母と、一緒に秋の空と木々を眺めた機会があり、中の一つに伸びやかに空にむかっているサンシュユの枝がありました。

 今でも秋深い中でグミのような赤い実を見ると、春まだ浅い日に葉に先駆けて枝に咲く清楚(せいそ)な黄色のサンシュユの花を思うと、巡る季節の中で静かに時を待って、次の春を迎えなさいと諭されているようです。今を越えていきましょう。良い年をお迎えください。


2018年12月29日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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