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薬と薬草のお話vol.28 山薬(さんやく)とヤマノイモとムカゴ

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.28 山薬(さんやく)とヤマノイモとムカゴ

薬用基原植物 Dioscorea japonica Thunberg
または Dioscorea batatas Decaisne(Dioscoreaceae)

 台風一過、今年は人に出会う都度「大丈夫でしたか?」の声をかけあうところから秋が始まりました。たくさんの高木がなぎ倒されている中、窓のフェンスにヒョロヒョロと蔓(つる)を延ばしてしがみついていたヤマノイモの蔓、小さな葉、零余子(むかご)の姿に思わず「良くしがみついていましたね」、草木の頑張りが目にはいりました。

 ヤマノイモの仲間は世界各地に分布していますが、日本のヤマノイモは日本特産で、山野に自生するものは別名自然生(じねんじょう)(自然薯=じねんじょ)としても知られています。種々の栽培品種がありますが、生薬として用いるのはナガイモがほとんどで、この根(実際には根と根茎の中間である担根体=たんこんたい)を秋に掘り出し周皮を取り除いてそのままか、または蒸してから乾燥したものを「山薬(さんやく)」と称して用います。

 配合される薬方は八味地黄丸(はちみじおうがん)、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、啓脾湯(けいひとう)、参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)などですが、中でも最も有名な処方は「八味地黄丸」で初期の糖尿病、腎性高血圧症、前立腺肥大症など、幅広く用いられます。薬方中での効用は補気薬とされ、山薬と地黄の組み合わせや、山薬と人参(にんじん)との組み合わせで期待する効果が異なりますが、これまでわかっている主要成分ジオスゲニン、でんぷん、糖たんぱく質、アミノ酸などとこれらの薬効を結びつけるだけのデーターは少なくこれからの研究が期待されます。

 強風にも挫(くじ)けず蔓を伸ばしたヤマノイモには茎の葉腋(ようえき)のつけ根にしっかりと零余子がついていました。

 食用だけでなく、「本草綱目」という古典書には、「虚損を補し、腰脚を強くし、腎に益す」とあり、これを食べていれば、飢えないとも記載されていると教えられました。

 大風に飛ばされなかった小さな黒褐色の零余子は、辛抱の塊のように思えるのは私だけでしょうか。いくつか採って零余子で「頑張り」をお裾分けしてもらいましょう。元気を出しましょう。



2018年9月29日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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