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vol.27 紫根(しこん)とムラサキ

薬用基原植物 Lithospermum erythrorhizon Siebold et Zuccarini (Boraginaceae)
2018年8月30

 私にとって「ムラサキ」という植物は「思い込み」を知った植物です。この薬草との初対面は根の方のシコン(紫根)で、暗紫色に染まった保存容器から取り出した、触れるとボロボロと崩れそうな根っこのかけらでした。紫根に触れる度、指先や容器が赤く染まるところから、花弁の色も色つきと思い込んでしまったのか、数年後ムラサキの白い花を見たときは驚きました。

 薬用にするシコンの基原植物はムラサキLithospermum erythrorhizon Siebold et Zuccarini (Boraginaceae) という多年草の根で、10月頃に根をとって陽乾したものを、土が乾いたらたたき落とすようにして除き、水洗いせず、十分乾燥後、密閉容器に入れ冷暗所に保存して使用します。東アジア温帯の各地に分布し、万葉集の詠まれた時代からその生息地を紫野と称して自生していたようですが、現在は絶滅危惧種となっています。

 漢方処方としては、やけどや皮膚の荒れ止めなどに使用する「紫雲膏(しうんこう)」(胡麻油=ごまゆ・当帰=とうき・紫根・黄蠟=おうろう・豚脂=とんし)や、水戸藩の蔵書中にある「紫根牡蠣湯(ぼれいとう)」があります。特に紫根牡蠣湯の方は、紫根を主薬として当帰や川芎(せんきゅう)を始め10種の薬味からなる処方で、なかなか治らない皮膚やリンパ腺の頑固な炎症、例えば乳腺の痛みなどの症状に試みることのできる処方です。現在ではエキス製剤化して市販されています。

 また近年、主要成分のシコニンには抗炎症、肉芽形成促進作用などの創傷治癒促進作用が認められ、抽出液には抗菌、抗浮腫作用や抗腫瘍作用が注目され白血病や乳がんなどへの研究が進められています。

 けれど私にとって、初夏に咲く4㎜ほどの小さなムラサキの花姿を思い浮かべる都度、世の中もっと複雑で思い込みは禁物、まだまだ不思議の世界が広がっていますよと、草木の声からさとされているようです。

(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)