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薬と薬草のお話vol.13 ビワと枇杷葉(びわよう)

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.13 ビワと枇杷葉(びわよう)

 数十年前、長崎から茂木枇杷が送られて来ました。オレンジ色の果肉を食べた後のお皿にはツヤツヤとした大きな種が残され、その種を亡母は洗ってエプロンのポケットへ入れていました。どうやらこの種子で母は長期計画を企てていたようです。

 ビワは中国中南部原産とされる、常緑高木で、初冬に花をつけ初夏に実をつけます。日本でも古くからその実を食用としてだけでなく、葉をお茶や入浴剤として使用され親しまれていました。

 漢方処方中には、その葉を生薬名枇杷葉として配剤した辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)や甘露飲(かんろいん)があります。中でも甘露飲は、和剤局方(わざいきょくほう)という古典書中に、口気(いまでいう口臭)、歯齦腫爛(しぎんしゅらん)〔歯槽膿漏=しそうのうろう〕に使うと記載され、近年日本でもOTCエキス剤として市販され、繰り返しできる頑固な口内炎や、舌や歯茎、口腔(こうくう)内の炎症に効果があるとされています。

 江戸時代には、枇杷葉の他に7味の生薬をブレンドした「枇杷葉湯」を暑気払いの飲み物として「ご存じ本家天満難波橋……枇杷葉湯」の売り声が夏の風物詩だったそうです。現代のようにアイスキャンディーでヒンヤリといかなかった時代には、主成分ネロリドールやその他成分のアミグダリンの分解物ベンズアルデヒドなどの僅(わず)かな香気が清涼飲料的な効果を出して、人気があったのかと思われます。

 母がポケットに入れた枇杷の種は、今では3~4メートルの高さまで育ち、オレンジ色をした実の房を軒下近くまで垂らしています。

 この木を見上げると、懐かしい母の顔と声が胸を突き上げるように浮かんできます。


2017年6月8日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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