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薬と薬草のお話vol.9 金銀花とスイカズラ

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.9 金銀花とスイカズラ

 冬の朝の通勤です。寒さに備えてしっかり着込んだ人の後を歩きます。あれ、前を歩く人波に一時陽光が差し、コートの肩の毛のもつれが銀箔(ぎんぱく)色に見えました。そうだ、冬から春への兆しかもしれないです。

 草木のほうも春の支度を急いでいるかもしれません。あの山道の「忍冬(にんどう)」スイカズラも「金銀花(きんぎんか)」と呼ばれる花蕾(からい)をひそかに芽吹く準備をしている季節です。
 「金銀花」という名称は「本草綱目(ほんぞうこうもく)」に初見し、明代から花を薬用にするようになったようで、日本では局方外生薬として基原植物スイカズラの花蕾を乾燥したものと規定し、近年この金銀花を配剤した処方が注目されています。

 例えば10種の生薬で構成された「銀翹散(ぎんぎょうさん)」や、14味の生薬で構成された「荊防敗毒散(けいぼうはいどくさん)」などがエキス剤として市販されています。銀翹散は葛根湯(かっこんとう)と異なり、風邪のひきはじめのゾクゾクするような悪寒がなく、ノドの痛みだけが気になる場合に効果があります。

 ちなみに、スイカズラ属の中にはハーブティーなどに使われる品種もあります。これは和名「匂い忍冬」と称される品種で、漢方生薬のスイカズラもハーブとしてのスイカズラも英名では「Honeysuckle(ハニーサックル)」と呼ばれていますが、薬用にはなりません。

 春の兆しは、職場でも風邪薬の調剤から花粉症予防へと変わりはじめました。時の流れの中、ふと「忍冬」から「金銀花」へ変わるさまやその名前に心をとめて見つめる時間は、草木から深い教えを聞かされている時に思えてなりません。


2017年2月14日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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