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vol.7 麦門冬とジャノヒゲ(蛇の鬚)
2016年12月21日

 病み上がりの父を伴って足腰のリハビリをかねて植物散策の山道。杖(つえ)を助けに歩くか、杖なしでも歩けるかを見守っていると、疲れていたはずの父から「あれ撮って」と弾んだ声がします。指さす方向は緑色の茂み。のぞくと、まんまるでツヤツヤの瑠璃色の実、ジャノヒゲの実(種子)です。

 ジャノヒゲは別名「リュウノヒゲ」ともいわれ、山辺の道端に生えるユリ科の多年草で、葉は冬でも青々としています。初夏、花を下向きにつけて、秋になると美しい実(裸出した種子)をつけます。父の子供の頃は、この実を竹鉄砲の弾として楽しんだそうです。

 生薬に使用するのは塊根、根茎の部分です。「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」に収載されており、夏に根を掘り、膨らんだ部分(紡錘形)を「麦門冬(ばくもんどう)」と称します。「本草綱目(ほんぞうこうもく)」には、「根が麦に似て鬚があり、葉は韮(にら)に似て冬でも枯れないので、麥虋冬(麦門冬)という」と記されています。

 代表的な処方には麦門冬湯(ばくもんどうとう)〔麦門冬、半夏=はんげ、人参=にんじん、甘草、粳米=こうべい、大棗=たいそう=の六味〕や辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)、竹茹温胆湯(ちくじょうんたんとう)があります。なかでも麦門冬湯は、これからの季節、空気が乾燥気味で口や喉が乾いて空咳(からぜき)が長引くときや切れにくい痰(たん)に効く処方です。さらに最近では、口や目などが乾く「シェーグレン症候群」のドライマウスの治療薬としても使用されます。

 冬枯れの山道。赤い実をかんざしのように下げているツルリンドウ、青い実を取られないように緑葉の根元にひそませているジャノヒゲ。あの道の行き先は、北原白秋の歌に出てくる、赤い実を食べた赤い鳥や青い実を食べた青い鳥の住処(すみか)かもしれません。

(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)