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vol.6 菊と菊花 
2016年11月11日

 北摂の植物を観察している方から「山の菊を見ましょう」と連絡が入りました。お目当ての菊は「竜脳菊(りゅうのうぎく)」。白の花びら(舌状花)と黄色の丸い芯の花(管状花)が、か細い茎の上にのり、柔らかい傾斜を描いて首をかしげたような清楚(せいそ)な菊の一群れでした(竜脳菊は薬用には使用しません)。説明するまでもなく、菊は日本で古来親しまれ、多くの品種栽培が進み、確実な野生種を探すことは困難です。

 薬用のキクは「菊花」と称し、キク科キクまたはシマカンギクを基源植物としています。秋に花を摘み取り、緑の総苞(そうほう)を除いて、頭状花のみを乾燥させたものを使用します。漢方の古典「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」では、「久しく服すれば、血気を利し、身を軽くし、天年を延べる」とあり、長寿の薬とされています。また他の古典書では、高齢者の目のかすみや視力減退に良いとされ、「菊花」を配剤した滋腎明目湯(じじんめいもくとう)、洗肝明目湯(せんかんめいもくとう)、杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)などの処方が収載され、現在も使用されています。

 ちなみに、お能の演目「菊慈童」では、山深い谷川の流れ菊の咲き乱れるところ、菊の下葉の露から「不老不死の薬」を得て、永遠の若さを得た美少年の舞が繰り広げられるそうです。

 薬としての「菊花」を手にすると、私たちの祖先が菊に託した長寿延命への思いを感じずにはいられません。かすみ目に悩んでおられる方も、清らかな目で秋冷の空を見られるようになることを願いたいです。

(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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