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vol.5 リンドウと竜胆(りゅうたん) 
2016年10月22日

 秋の休日、足元が弱りだした両親と里山の坂道を歩いていた時のこと。歩みを励ますように青紫色のリンドウが一株見えてきました。両親に休んでもらい、カメラを手に花に近づくと、先ほどまで天に向かって開いていたはずが、円すい形に花弁をたたんで素知らぬ姿に変わっています。日本で自生するリンドウはエゾリンドウやオヤマリンドウなど数種あり、9〜11月頃、対生する葉の付け根から青紫色の花を上向きに咲かせます。けれど花は日光を受けて開き、日が陰ると閉じてしまうのです。

 草木を見ればすぐ効能効果に結びつけるのは風情のないことかもしれませんが、現在薬用とするリンドウは、中国、朝鮮半島に分布するトウリンドウで、その根および根茎を乾燥させたものを生薬名「竜胆」と称します。漢方の古典書では、竜胆は疎経活血湯(そけいかっけつとう)という処方に他の16 種の生薬と共に配剤され、坂道の上り下りなどに感じる関節痛、筋肉痛や足腰の慢性的な痛みに良いとされています。

 日々薬を追いかけていると、季節を知らせる自然の姿も忘れそうですが、現在の医療現場は日進月歩の発展が続いています。例えば分子標的薬による抗がん剤治療と、漢方薬のような天然物、多成分系の薬による副作用軽減の補完治療など、漢方薬と現代薬の新しい組み合わせ、これまでの古典にはない治療も行われています。

 リンドウの咲く頃は秋風が爽やかで歩きやすいです。歩々清風を感じながら、朝に咲き夕に眠る一日の大切さを、リンドウから教えられた気がします。今となっては貴重な思い出です。

(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)