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薬と薬草のお話vol.3 ハマスゲと香附子(こうぶし)

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.3 ハマスゲと香附子(こうぶし)

 幼い頃、花好きの叔母の畑での事です。草木の中、細長い草を見つけて叔母に質問。「これ何?」とたずねると答えは「悪草(わるくさ)」。次の草を見て「これは?」「これも悪草」。その繰り返しでした。ハマスゲも間違いなく叔母から「悪草」と言われそうな姿の持ち主です。

 ハマスゲはカヤツリグサ科の多年草で、日当たりの良い海浜砂地や路傍、時にはアスファルトを押し上げてはびこる強い草です。生薬としては、秋に根を掘り取って根茎を乾燥させて「香附子」として用います。

 薬としての利用は古く、3~4世紀の古書に記載されています。現在でも漢方薬の構成生薬として利用されていますが、香附子のみで使用されることはありません。

 香附子は気鬱(きうつ)や食欲不振を治すとされています。例えば夏、冷房で冷えすぎた身体に冷たいものを取りすぎて、胃腸の働きが弱りがちなときの薬として、香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)や六君子湯(りっくんしとう)があります。六君子湯に香附子などを加味したものが香砂六君子湯です。また、六君子湯は近年、食欲増進ホルモン「グレリン」の分泌を高める作用が明らかになっています。

 路傍の最強雑草、土の見えない「逆境」で頑張るハマスゲ。大切な根は地面下に張り巡らし、塊茎をつくり、路面を突き破るほどの生育力です。草取りの人の手から、自分たちの根を固い舗装で守っているのかもしれません。ハマスゲにしてみれば、ひそかにしたたかに「順境」にして生き抜いているのかもしれないですね。


2016年08月11日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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