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薬と薬草のお話vol.2 クチナシと山梔子(さんしし)

広告 企画・制作/読売新聞社広告局

vol.2 クチナシと山梔子(さんしし)

 梅雨時の通勤。傘をさしてうつむき加減の姿勢でいると、足もとから甘い香りがします。歩道の植栽に近づくと、人と車の気配に少し疲れた様子の白い花、クチナシからの芳香でした。

 クチナシは西日本の低山地の南斜面に自生する常緑の低木で、梅雨の頃に白花を開き、芳香を放ちます。晩秋には長卵形で六つの稜線(りょうせん)のある赤褐色の果実が美しく熟します。この完熟した果実を11月頃の霜が降りた後に採取し、陰干ししたものを、生薬「山梔子(さんしし)」として用います。

 日本では、飛鳥・天平の時代から衣類の黄色染料として用いられ、梔子色(くちなしいろ)は身分の高い人にのみ許された衣装であったそうです。現代では、例えば色素としておせちの栗きんとんやスイーツのモンブランに使われるなど、身の回りの生活に結びついた植物です。

 漢方薬としては、清肺湯(せいはいとう)、五淋散(ごりんさん)、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)などの薬味として使用されています。黄連解毒湯は、のぼせ、イライラ感、不眠、胃炎、二日酔いなどに処方されています。

 今日も薬を手にすると、山梔子のこれらの処方に至るまでにどれだけの試行錯誤があったのだろうと、昔の人の知恵に頭が下がります。先人たちに感謝せずにはいられません。

 雨の日の、物静かに香りを漂わせている白花との出会い。忙しい毎日、少し手を止めて草木のことも考えてほしい、と花にささやかれているようなひと時でした。


2016年07月12日
(笹川 悦子/笹川薬局社長/薬剤師)

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