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 11月23日、大阪市中央区の大阪ビジネスパーク円形ホールで、命を救う人工心臓と心臓移植をテーマにシンポジウムが開催された。冒頭、共催者の公益財団法人 循環器病研究振興財団 理事長・国立循環器病研究センター名誉総長 北村惣一郎氏が開会のあいさつ。同センターの福嶌教偉先生による心不全や治療についての基調講演のあと、パネルディスカッションで、医療チームと心臓移植を受けられた方、植込型補助人工心臓を装着された方を交えて治療法や課題、臓器提供の必要性について語り合いました。

様々な病気から起こる 心不全とその治療法

 心不全は、心臓の全身に血液を送るポンプ機能が低下した状態の総称です。一つの病気から起こるものではなく、心筋梗塞、不整脈、弁膜症、先天性心疾患、高血圧、心筋症などさまざまな病気から起こります。日本人の死因の第2位で、どの年代の人も心不全で亡くなる確率はほぼ同じです。治療は、基本的には薬と、食事・運動・たばこなどの生活習慣の見直しで、心不全の進行を防ぎます。初めから外科の手術が必要な場合もあります。

 心不全の原因は、弁膜症などの機械的障害・不整脈などの調律異常・心臓の筋肉が傷む心筋不全の三つに分けられます。心筋不全の中で一番多いのが、心筋梗塞です。コレステロールなどがたまった心臓の血管が狭くなったり詰まったりして血が行かなくなり、心臓の筋肉が死んでしまう病気で、カテーテルを使って狭いところを広げるという治療が基本です。高血圧、ストレス、肥満など、大人の多くが危険因子を持っていますので、病気になってしまった人も薬をきちんと飲んで、重症化しないように自分の心臓を大切にしてください。

重症の心不全を救う 人工心臓と心臓移植

 薬でも手術でも治せない末期的心不全になったとき、選択肢となるのが人工心臓と心臓移植です。以前は体外設置型だった人工心臓は、現在は体内植込型になり、合併症も少なく、退院して心臓移植を待つことができます。世界初の心臓移植は1967年。それから30年後、日本では臓器移植法が制定されました。2010年の法改正で、本人の意思が不明な場合でも家族の承諾で脳死臓器提供が可能になり、その数は増えています。ただ、亡くなった人から心臓をいただくわけですから、移植を受けられるのは感謝してその命を大切にできる人です。また、対応できる施設も限られています。大阪では国立循環器病研究センターと大阪大学の2か所で可能で、昨年は30人、今年はすでに20人の方が移植を受けました。それでも海外に比べて非常に少なく、待機期間が長いことが課題です。

人工心臓、心臓移植に至る つらい生活と移植の現状

渡辺 心臓移植を受けられた安藤さんは、移植前の状況はどうでしたか。

福嶌 体外設置型補助人工心臓をつけていました。植込型補助人工心臓と比べて感染症などのリスクが大きく、重さが85キロ・グラムもあるため退院できませんでした。

安藤 機械と自分の体がつながれていて、行動範囲は約5メートルです。窓も開けられず、外の世界と切り離されていました。夜1人でいると、機械の動く音が大きく聞こえ、これが止まったらどうなるのか、いつまでこの状況が続くのか、といろいろ考えてしまうつらい日々でした。

渡辺 高木さんは現在、植込型補助人工心臓を装着されていますが、以前の状況はいかがでしたか。

瀬口 北陸地方から介護タクシーでストレッチャーに横になって運ばれてきました。心臓はもう限界というギリギリのところでした。

高木 人工心臓をつける前は、起きあがれない、息がつらい、食欲がない、眠れない―とにかくつらくて生き地獄でした。

瀬口 日本では臓器の提供が少なく、待機期間は3年以上です。人工心臓をつけて待たなければ生きられないのが現状です。

福嶌 昨年は51例の移植があった一方で、65例は待機中に亡くなっています。一方、例えば韓国では年間150例以上が行われていますが、ほとんどの人が人工心臓をつける前に移植ができています。

心臓移植後の社会生活 いただいた大切な命

渡辺 安藤さんは、心臓移植後どのように過ごされていますか。

安藤 閉鎖的なところに何年もいたため、外に出るとどうしていいか分かりませんでした。社会復帰するため交通機関を1人で利用することから始め、移植から3年目の春に仕事に復帰できました。免疫抑制剤の使用で手の震えが出ていましたが、克服するため筆ペンを習って師範の免許を取りました。先生方や移植コーディネーターの方、家族や会社の方、たくさんの人に支えられていることに感謝しています。

福嶌 個人差はありますが普通の生活に戻れます。毎年開かれている移植者スポーツ大会でバドミントンをしている人もいますし、筋ジストロフィー患者で当院で移植を受けた方が、地道な訓練を重ねた結果、今年の8月末には富士登山に成功しています。

渡辺 移植はリスクもあるのでしょうか。

 最大の問題は拒絶反応です。12時間ごとに免疫抑制剤を飲んで抑えます。また、すしなどの生ものは禁止、感染症予防のマスク、手洗い、うがいは必須です。猫やハトは菌が多いため飼えません。不自由も多いですが、提供者やその家族の気持ちに報いるためにも、いただいた命を大切にすることが一番です。また、移植者が元気でいることは、その後に続く人たちの励みにもなります。

福嶌 国際心肺移植学会の統計で移植後の10年生存率は6割ですが、日本では9割以上で、当院では95%です。いただいた命を大切にするという意識を持った生活が、高い生存率につながっています。

人工心臓の生活を支える 医療チームや周囲の理解

渡辺 植込型補助人工心臓とはどんなものですか。

瀬口 小型のポンプが体内にあるので家に帰れますし、3年生存率は90%以上と高い数字です。社会復帰も可能なため、移植までの期間を人生を前に進める時間にできます。

 退院するためには、本人と介護者である家族の勉強が必要です。介護者の役割は、機械の発するアラームが聞こえるところにいて24時間対応することです。機械の仕組みやアラームの意味などを理解するための講義と試験があり、合格して初めて介護者と認められます。

高木 父が介護者ですが、親子そろって人生で一番勉強したかもしれません。でもそのおかげで3年以上何のトラブルもありません。人工心臓にしてから食事がおいしくなり、今は仕事もしています。

西岡 私たちにとってこの指導は譲れないところですね。ほかにも、体内のポンプと体外のコントローラーをつなぐ線が出ている部分を消毒する試験の後、病院外に出る練習を2回、自宅で1泊する練習を2回します。7~9週間かけてようやく退院という流れです。

 その後も定期的な外来診療で、傷の状態のチェックや体重コントロール、栄養指導を行います。

西岡 全力でサポートするので、安心して治療を受けてほしいですね。

渡辺 医師だけではなく、強力な医療チームがあってこそ支えられる命なんですね。学校や職場にも人工心臓をつけた方がいらっしゃるかもしれません。周囲の理解も大切ですね。

 職場の方に理解と緊急時の対応をお願いするために、講習を受けてもらうなど協力が必要です。また、植込型補助人工心臓をつけている方は外見からはわかりません。ヘルプマークをつけている人には席を譲るなど、社会全体で理解し、支えたいですね。

臓器移植の四つの考え方 家族と自分の意思確認を

福嶌 移植には四つの考え方があります。臓器提供を「したい」「したくない」「受けたい」「受けたくない」。どれが正しいということではなく、どれを選ぶかというチャンスは平等にあります。

 こういった考えは、健康保険証や運転免許証でも提示できますし、日本臓器移植ネットワークでも登録できます。ぜひご自身の考え方を示してください。また、家族が拒否すると移植はできないので、自分の意思を家族に伝えて話し合うことも重要です。

瀬口 生活制限や合併症の可能性などから移植を受けないという選択をする人もいます。その人自身の考え方が大事なので、正確な情報でメリット・デメリットを把握して判断してほしいですね。

福嶌 ここ数年で人工心臓は非常に進歩していますが、一番大事な、提供していただいた命を大切にし続けるという姿勢は変わりません。日本では子どもの移植がまだ少なく、助けられない子がたくさんいます。皆さんにも移植について考えていただき、この国に生まれたからこそ助かるという状況になることを願っています。

●主催:読売新聞社
●共催:公益財団法人 循環器病研究振興財団
●協賛:ニプロ株式会社

●後援:厚生労働省、大阪府、日本医師会、日本臓器移植ネットワーク、日本循環器学会、日本心不全学会、日本小児循環器学会、日本臨床補助人工心臓研究会、日本心臓移植研究会、国立循環器病研究センター、日本移植者協議会、心を守る会、全国心臓病の子どもを守る会