よみうりヘルスケアコンパニオン

ホーム > 特集

  • 市民公開講座 切らずに治す、がん重粒子線治療

 がん治療の中でも新しい重粒子線治療を知ってもらおうと、市民公開講座「切らずに治す、がん重粒子線治療」が9月7日、大阪市中央公会堂で行われました。

 現場の医師らが適応するがんの部位や治療費用・期間などを詳しく解説し、重粒子線治療の経験者が闘病生活を紹介。来場者は熱心に耳を傾けていました。

施設紹介

  • 茶谷正史氏

至高の重粒子線治療を目指して


 重粒子線治療の施設は現在、世界に11か所あり、今後も各地で新たな建設が進む予定です。日本では1994年に千葉市の放射線医学総合研究所(放医研)で治療が始まり、兵庫県、群馬県、佐賀県、神奈川県、そして昨年3月に開院した大阪重粒子線センターの6か所で、症例数も伸びました。2016年に骨軟部腫瘍、18年に前立腺がんと頭頸部(とうけいぶ)がんの一部が保険適用になり、年間の治療数は2600例を超えています。

 最新の技術を取り入れた当センターは立地もよく、隣接する大阪国際がんセンターと連携し、専門的な先生方と協力関係を築いています。大阪から日本全国、そして世界へ向けて、がんを克服する治療を目指しています。

基調講演①

  • 長谷川安都佐氏

頭頸部がんの重粒子線治療


 頭頸部とは顔面、脳より下、鎖骨より上の首までを指し、主な領域は口腔(こうくう)・咽頭・喉頭・鼻腔(びくう)・副鼻腔・唾液腺などです。頭頸部がんは全てのがんの5%程度と発生頻度は低く、多くを占めるのは食道がん、口腔・咽頭がん、喉頭がんです。

 まず手術を検討しますが、目や脳などの重要な臓器があり、神経や血管が多く、困難です。また、切除には入院が必要で、傷で見た目が変わったり、体の機能の一部が失われたりする場合もあります。一方、放射線治療は外来が可能で、手術直後の傷や組織欠損はありませんが、副作用が表れます。

 重粒子線治療は、まず歯科を受診して、CT画像の乱れを防ぐために口の中の金属を除去し、治療部位を固定するためのマスクやマウスピースを作成します。これらを装着してCT撮影を行い、場合によってはMRI画像も用いて総合的な判断を基に線量計算をし、治療計画を立てます。最終的に医師、医学物理士、診療放射線技師、看護師など全てのスタッフで症例検討会を行います。当センターでは、放射線治療に特化した認定看護師が2人在籍し、患者さんのケアを徹底しています。

 照射は1回2、3分程度を16回、4週間行い、熱さや痛みはありません。照射中の急性の副作用として皮膚炎と粘膜炎が起きますが、照射部周辺に限られ、1か月ほどで治ります。一方、遅れて出る副作用は様々で、照射半年以降に放射線骨髄炎や、最終的には腐骨(ふこつ)になることもあります。治療の効果は、時間をかけて少しずつ変化します。画像診断、歯科での口腔ケアなどを定期的に行い、経過を長く診ていく必要があります。

*骨が壊死(えし)すること

基調講演②

  • 外木守雄氏

(がく)口腔領域の放射線治療を受けるために
知っておきたい3つのこと


 歯科医として、頭頸部の放射線治療を受ける際の三つの不都合なことを話します。一つ目は、歯の治療痕など口の中の金属が治療の邪魔をするということです。金属があると適切なCT画像が撮像できず、乱反射した粒子が想定外のところに当たり、予期せぬ副作用を起こします。よって治療前に歯科治療で金属をすべて外し、プラスチックなどの非金属に交換する必要があります。歯根の治療も行い、残っている歯の環境を整えます。

 二つ目は、口の中にばい菌が多いと治療に影響するということです。口腔内細菌が適正でないとカンジダなどの真菌に感染する恐れもあり、日々の歯磨きとかかりつけ医での定期的なケア、歯石や舌苔(ぜったい)の除去は重要となります。歯がない場合でも専用器具や保湿剤を用いた口腔ケアを行います。重粒子線治療では粘膜の炎症などの反応が起きますが、口腔ケアをすることでその影響を短く軽減できることが分かってきました。

 三つ目は放射線治療による腐骨です。重粒子線治療でがん細胞が死滅しても、失われた組織は元通りになるわけではなく、補う必要があります。重粒子線の高エネルギーによって腐骨が発症すると、悪臭や激痛が起こり社会復帰の妨げとなります。腐骨除去手術は、従来の放射線治療では除去部分の特定が難しく、何度も手術を重ねる場合がありましたが、重粒子線治療では線量分布図から除去すべき範囲が分かります。例えば上顎全体の大きな腺様嚢胞(せんようのうほう)がんの重粒子線治療後に上顎の骨がなくなった場合でも人工歯根などを用いて補うことが出来るようになってきました。体への負担が少ない重粒子線治療だからできた治療です。

トークセッション

  • 堤静香氏

1%の奇跡(顔面手術を取り止め重粒子線治療へ)

「放医研・虹の会」主宰 堤 静香 氏
キャスター・大阪綜合研究所代表 辛坊 治郎 氏


辛坊 堤さんは、がんとどのように向き合われたのでしょう。

 2004年3月、頭頸部の骨肉腫だと宣告され、手術以外に方法はなく、5年生存率は30%弱でした。顔の半分を失う恐怖に毎日朝から晩まで一心に親鸞のお経を唱え、2週間ぐらい経(た)った時、不思議なことにスッと体が軽くなり、前向きな気持ちになりました。

辛坊 「1%の奇跡」はどのように起きましたか。

 手術の4日前に、夫が重粒子線治療の新聞記事を見つけてくれ、私は直感的に記事の病院に電話をして、手術を取り止(や)めることにしました。

辛坊 重粒子線治療はセカンドオピニオンだったのですね。

 当時は治療施設がドイツと日本にしかなく、高線量の顔面への照射は私が第一号ということに一瞬ひるみましたが、この奇跡に懸けようという強い信念になりました。16回の照射で約2か月入院し、退院後はモルヒネで激痛に耐え、1年後の腐骨除去手術でようやく痛みがなくなりました。

辛坊 現在はどのような活動をされていますか。

 05年に患者会を発足させ、テレビ出演や講演などで重粒子線治療の普及活動を行い、14年からは医用原子力技術研究振興財団の理事を務めています。せっかくがんになったので、医師と患者の懸け橋となるべく第二の人生を歩んでいます。みなさんに贈りたいメッセージは「最後まで諦めない! 何があっても!」。

パネルディスカッション

  • パネルディスカッション
  • パネルディスカッション

辛坊 大阪重粒子線センターの治療実績を教えてください。

茶谷 治療開始の昨年10月から今年7月までで約320例です。疾患にもよりますが通院1回の治療時間は15分~2時間で、仕事との両立が可能です。

辛坊 がんの部位によって、治療期間や方法はどのように異なりますか。

大坂 前立腺がんは、準備で2回ほど通院した後に、3週間で照射を12回します。

 早期肺がんは4日間で4回、進行肺がんでは4週間で16回です。早期肝がんは4日間で4回が基本です。ただ、重粒子線治療にも限界があり、がんの転移、特に多発リンパ節転移や多発遠隔転移には適さず、抗がん剤や免疫療法等が治療の主体です。

安西 膵(すい)がんは3週間で12回、大腸がんの骨盤内術後再発では4週間で16回です。肺がんや肝臓がんは重粒子線のみの治療が多いのに対して、膵がんは同時に抗がん剤治療も行うなど、疾患や病状により抗がん剤治療やホルモン療法を併用することがあります。

辛坊 来場者からの質問です。まず治療費用はいくらぐらいでしょうか。

茶谷 大部分の疾患は先進医療の対象で、照射回数にかかわらず一律314万円(※)です。民間保険で先進医療特約がある場合もあります。公的保険適用の前立腺がんは、3割負担の場合約50万円です。今後、適用範囲は広がっていくでしょう。

辛坊 公的保険だと窓口負担が1~3割で、かつ高額療養費制度によって患者さんの自己負担は比較的軽くなっていますね。通院・入院や年齢に条件はありますか。

大坂 当センターは外来のみです。年齢は12歳以上が目安で、上限はありません。

辛坊 X線や陽子線との違いは。

 放射線治療はX線治療が一般的ですが、重粒子線は従来のX線や陽子線より腫瘍を壊す効果が約2~3倍高く、病巣に狙いを定めて照射ができるので、周囲の正常組織への影響が少ないです。

辛坊 実際には重粒子線治療について、主治医に相談しにくいと思うのですが……。

外木 患者力をつけてください。それは情報力でもあります。セカンドオピニオンを医者は嫌がりません。ルールは資料を持参すること、素人同士で話をしないことです。必ず専門家の意見を聞いてください。

 治療の選択肢は増えており、私たち患者も勉強しましょう。病気に向き合い納得して治療を受けるためにも、もし治療に悩んでいたらセカンドオピニオンをお勧めします。

大坂 紹介状ではほとんどが患者さん自身の希望です。治療適用かどうか分からなくても、重粒子線治療という言葉を発することが大切ですね。

茶谷 当センターのセカンドオピニオン受診も可能ですが、診察には紹介状、画像情報、血液データなどが必要ですので、まず主治医に相談してください。

辛坊 本日、皆さんは重粒子線治療という選択肢を手にしました。この幸運を今後の治療に生かしてほしいと思います。

※先進医療の場合は、一般保険診療と共通する部分(診察・検査・投薬等)の費用は公的医療保険が適用されますが、重粒子線治療の照射技術料全額(314万円)が患者様の自己負担となります。また、公的医療保険(及び高額療養費制度)による助成は利用できません。詳しくは大阪重粒子線センター(06・6947・3210)までお問い合わせください。

  • 主催:公益財団法人大阪国際がん治療財団、大阪重粒子線施設管理株式会社
  • 後援:大阪府、大阪府立病院機構、一般社団法人大阪府医師会、公益財団法人大阪対がん協会、
    一般社団法人大阪府病院協会、読売新聞大阪本社
  • 協賛:医療法人協和会、株式会社日立製作所