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パネルディスカッション「がん免疫治療の展望」

●パネリスト●
山本 信之 先生室 圭 先生高野 利実 先生澤 祥幸 先生長谷川 一男

●コーディネーター●
松本 陽子
(NPO法人愛媛がんサポート おれんじの会 理事長)

免疫チェックポイント阻害剤 受けられる医療機関と効果

松本 今までの薬と免疫チェックポイント阻害剤との違いを教えてください。

山本
 抗がん剤はがんをやっつけるもので、免疫チェックポイント阻害はがんをやっつける免疫細胞の力を高めるものです。

 免疫チェックポイント阻害は、科学的なメカニズムによって免疫機能を上げるための薬であり、臨床試験という科学的な評価で有効性が示されています。

松本
 どの医療機関でも受けられるのでしょうか。

山本
 保険診療を行っていれば、基本的にどの医療機関ででも受けられます。日本の良い点は、科学的に証明された治療には保険が適用されることです。ただ、受けられることと受けて良いこととは別で、副作用に十分対応できる病院で受けられることをお勧めします。

松本
 抗がん剤が効かない患者さんにも効く可能性があるということですが。

高野
 ほぼ全てのがんで臨床試験が行われ、かなりの部分で使われるようになり、効かないとされていた乳がんでも、抗がん剤と組み合わせることで、一部に有効性があることが分かってきました。ただ、全ての人に同じように効くわけではないので、担当医とよく相談してください。皆さんの役に立つ薬は他にもあるかもしれません。

免疫療法の有効性と副作用 看護師や薬剤師にも相談を

松本 免疫チェックポイント阻害剤が効くかどうかを事前に調べる方法はありますか。

山本 肺がんでよく効くのは、がん細胞のPD‐L1の発現率が高い時です。また、低い時や全くない時でも抗がん剤と併用するとよく効きます。

 胃がんでは、がん細胞のPD‐L1とその周りにある免疫細胞のPD‐1の発現を見て、高ければ有効性ありとしています。

高野 乳がんでは、臨床試験の結果、PD‐L1陽性のトリプルネガティブ乳がんには効くだろうと言われています。「だろう」というのは、臨床試験の結果が皆同じではないからです。

松本 患者会の中で、免疫療法への期待はありますか。

長谷川 肺がんの場合は効果があると分かっている薬がいくつもあるため、自分に合う薬があるか、患者はすごく気にしています。正しい情報を得ようと試行錯誤しています。

松本 免疫療法にはどんな副作用があるのでしょうか。

 発疹、下痢、大腸炎、採血でしか分からない甲状腺の機能低下、下垂体機能の低下、副腎機能の低下など、頻度は高くないものの、非常に多岐にわたります。様々な症状が起こり得るので、気になることがあれば、医師に限らず看護師、薬剤師にも相談してください。

様々なスタッフが協力する チーム医療で個別にケア

松本 誰か言いやすい医療者に話すことが大切ですね。

 今は免疫療法をはじめ医療が非常に複雑化し、一人の医師では完結できません。また、かつてのがんという病気を診るスタイルから、今は一人ひとりの患者さんを診る、人をケアするという考え方に変わってきています。看護師には抗がん剤の専門家や痛みを取る専門家、病院の相談員には金銭問題の解決や、仕事の継続を援助してくれる人もいます。スタッフが協力し、良い医療をやっていこうというのがチーム医療で、それぞれのがん学会でも推進しており、皆さんにできるだけ満足のいく医療を提供できるよう取り組んでいます。

松本 長谷川さんはチーム医療のありがたさを実感されたことはありますか。

長谷川 がんを告知され、気持ちがすごく不安定な時に、緩和ケアの看護師さんから「できないことを数えずに、できることだけを数えてください」という言葉をもらいました。治療や生活の上で不都合が起きても、気持ちが落ち込むことがあまりなくなりました。

松本 免疫チェックポイント阻害剤は、薬剤費が非常に高額であることも話題になりました。

高野 患者さんの負担に加え、国や国民全体の負担も考慮する必要があります。今は、高額であっても標準治療をきちんと行う方針を貫いていますが、それが立ち行かなくなる可能性も危惧されており、国民一人ひとりの問題として考える時代が来たように思います。

最善の治療を受けるために 患者さんも正しい情報収集を

松本 長谷川さんたちは、患者さんや家族が最新の情報を理解できるように取り組まれているようですね。

長谷川 患者会と日本肺癌(がん)学会とで「患者さんのための肺がんガイドブック」を作り、発刊しました。正しい情報に加え、より良く診察や治療を進めていくコツも載せています。

松本 専門医だけでなく、私たちから建設的に意見を言うことも、医療を良くしていくことにつながるのかなと思います。これからのがん治療への思いをお聞かせください。

山本 現在の治療には残念ながら、安く、簡単に治せるものはなく、そのほとんどはどこかに欠点があり、許容しなければなりません。このような場で、適切な情報を得ていただければと思います。

 「がん免疫療法」をインターネットで検索すると、いい加減な治療が結構上位に出てきます。まずは主治医や信頼できる医療者にご相談ください。がん治療はその人にとって人生や生活の一部で、全てではありません。だからこそ、希望を持って治療を受けていただきたいと強く思います。

高野 皆さんは今、最善の治療を受けておられます。10年後の医療を夢見て、今の治療は不十分だと思う必要はありませんし、不十分だと思う時は担当医にぶつけてください。また、目標を決めて治療を進めていくため、皆さんの価値観や大切なことも聞かせてほしいです。

 お願いしたいのは「できる患者になろう」です。正しい知識とコミュニケーション力を身につけ、医師から適切に情報を引き出せる患者さんを目指してください。専門家や市民団体など、いろんな方が皆さんの力になりたいと思っていますので、その人たちの力をうまく生かすのが、「できる患者」だと思います。

長谷川 私たちはお金があれば良い生活ができますが、医療は貧乏人も金持ちも全員、ベストの治療を受けられます。医療はそうした世間の常識とはちょっと違うということを知っていれば、変な治療に行ってしまうことはないと思います。

WJOGの活動紹介

澤 祥幸 先生
岐阜市民病院 診療局長(がんセンター)/WJOG理事・教育広報委員長

 当機構(WJOG)は、1991年に肺がんの研究グループとして発足し、2000年に法人化したがん専門医のボランティア集団です。07年に消化器がん、乳がんのグループが加わり、現在約1000人の会員がいます。

 がんには様々な治療法があり、新しい薬が開発されるとそれを最大限有効に活用するために、手術や放射線治療、他の薬物との組み合わせなども含め、多くのことを調べなければなりません。そのため我々は、開発された薬をどういう患者さんに、どのように使えば最大限の効果が発揮されるのか、臨床試験を行って研究しています。また、がんとその治療方法について正しい知識を身につけていただけるよう、一般の方に向けた公開講座を毎年開催しています。

 機構の運営は会費収入と会員の寄付でまかなっております。より良いがん治療の実現のため、皆さんもご協力いただければ幸いです。

主催/認定NPO法人西日本がん研究機構(WJOG)
共催/小野薬品工業株式会社、ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社、読売新聞大阪本社広告局
後援/大阪市医師会、日本肺癌学会、肺がん医療向上委員会、日本臨床腫瘍学会、NPO法人肺がん患者の会 ワンステップ、NPO法人愛媛がんサポートおれんじの会、日本対がん協会
協力/大阪よみうり文化センター