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 日本人女性の12人に1人が患うといわれている乳がん。今年は国内患者数が約9万人に上ると予想されています(国立がん研究センター発表)。早期に見つかれば治療の選択肢が広がり、治る確率も高くなります。一方、通院治療を前向きに続けていくには、日常生活での「セルフケア」や周囲のサポートが欠かせません。治療の現状や術後の心がけ、周囲の人々ができることなどについて、大阪国際がんセンター乳腺・内分泌外科主任部長の中山貴寛先生に聞きました。

専門家による正しい情報で早期発見を

 乳がんになった場合、ほとんどの人は「がん」という病を受け入れられず、大きなショックと不安で精神的に落ち込まれます。術後の通院治療が始まってからは再発の恐怖におびえる人も少なくありません。そんな時は私たち医師が十分に説明し、専門の看護師が不安や悩みに応じてアドバイスをしますので、過度に心配する必要はありません。

 最近はインターネットの情報に振り回されて治療を拒否・中止したり、民間療法に頼る人もいるようですが、効果や安全性について科学的に証明されていない方法が多いのが現状です。このような行動の結果、本来なら助かるはずだった患者さんが手遅れになってしまうケースは大変残念です。 まずは主治医に相談し、正しい情報を得るように心がけてください。

治療の進歩でやわらぐ苦痛

 乳がんと診断されると、「切除手術で乳房を失ってしまうのではないか」「抗がん剤の副作用が心配」などと不安になる患者さんは少なくありません。しかし、治療は近年、大変進歩しています。手術では、しこりとその周囲の組織を取り除いて乳房を残す部分切除手術がありますし、乳房全体を切除した場合でも人工的に取り戻す乳房再建手術も増えています。

 また、副作用を少なくするための支持療法の開発により治療が楽になってきました。良い吐き気止めや白血球を増やす薬が開発されて苦痛が軽減されるなど、治療が受けやすくなっています。

副作用の軽減とQOLの向上

 乳がんの診断が確定すると、がんを取り除く手術と再発を予防するための治療を行います。①手術②放射線療法③薬物治療(抗がん剤・ホルモン剤・分子標的治療薬など)が三つの柱となります。

 タイミングとしては、手術を行ってから放射線療法や薬物治療を行うケースと、薬物治療を行ってから手術を行うケースがあります。どの治療から始めるか、どの治療法を組み合わせるかは、進行度やがんの性質、患者さんの希望などによって異なります。

 ただ、治療法の進歩によって、退院してからの通院治療が長くなりがちです。従って、副作用による悩みや不快感が軽減され、仕事や日常生活とのバランスを取りながら前向きに治療を続けていくことが大事になってきます。近年は闘病中の患者さんの生活の質(QOL)を向上させるための「セルフケア」が注目されるようになってきました。

「セルフケア」で前向きに治療

 抗がん剤の副作用のひとつである脱毛や、放射線療法による皮膚の乾燥や赤み、色素沈着などについては治療前に情報提供し、看護師ら医療スタッフが必要なサポートを行います。脱毛のケアについてはかつらや帽子などが一般的ですが、最近は脱毛の程度をかなり抑えることができる特殊な冷却キャップが海外で開発されました。抗がん剤の点滴中にかぶることで頭部の血行を抑制し、抗がん剤が髪の毛に与えるダメージを小さくするという仕組みです。

 また、乳房が変形した人に対しては、直接皮膚に貼り付ける疑似乳房が普及しています。ぬれに強いため、手術を受ける前と同じように温泉やプールを楽しむことができると患者さんから定評があります。放射線を照射した後の肌への刺激が少なく、縫い目のない機能性下着も進化しています。

 セルフケアを行うことによって気持ちが前向きになることは、治療成績(再発率など)にも良い影響があるのではないかという研究もあるようです。

周囲のサポートで乗り越える

 乳がんは日本人女性がかかるがんの中でも最も多いもの。30歳代後半から増加しはじめ、2015年では40歳代後半と60歳代後半にピークがみられます。早期に発見し適切な治療を受けると9割以上が治るといわれています。

 自治体や企業の検診で発見されることもありますが、最初に異常に気づく機会が多いのは本人です。がんの中で自己検診が可能なのは乳がんだけですので、日ごろから乳がんの危険性を意識してセルフチェックを続け、検診を受けることが大切です。

 また、乳がんにかからないためには、日ごろからの予防も欠かせません。肥満にならないこと、バランスの良い食事と適度な運動、禁煙などです。

 そして、もし、かかった場合、何より心の支えになるのが、ご家族や周囲のサポートです。ホルモン療法を受けている人の中にはイライラや抑うつなど更年期のような症状に悩まされ、周囲の人にあたってしまうこともあるかと思います。それが薬の影響であることを周りの人は理解し、温かい目で見守っていくことも必要でしょう。

 profile 
中山 貴寛先生(大阪国際がんセンター 乳腺・内分泌外科 主任部長)
 2006年、米国でがんセンターとしてNo.1と評価されているMDアンダーソンがんセンターにてチーム医療を学ぶ。治験、臨床試験など新規治療や支持療法の開発に積極的に取り組む。日本外科学会専門医・指導医。日本乳癌学会乳腺専門医・指導医。