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 がんや人間ドックへの理解を深める健康フォーラム「がんと生活習慣病を予防する」が、2017年3月11日、大阪国際がんセンターで開かれた。同センターは、大阪府立成人病センターが名称変更・移転し、3月25日に開院。開院に先立って行われたフォーラムでは、がん治療の最新動向や生活習慣病との関係、予防策などについて専門医が解説。これから向き合うべき課題や治療のあり方などについても意見交換を行った。( 肩書は掲載時のものを使用)

主催/大阪国際がんセンター(大阪府立成人病センター)、読売新聞大阪本社
後援/読売テレビ

あいさつ

大阪国際がんセンター病院長
左近 賢人

 近年のがん医療では、「がん」そのものの診断・治療だけでなく、生活習慣病の予防など総合的なアプローチが不可欠です。早期発見・早期診断・早期治療に加えて遺伝子診断への期待も高まっています。がん医療が大きく変わった今、「がんは治る」時代となりました。今後の課題は「がんを克服した人がその先の人生をいかにより良く生きるか」。そのためには心身両面でのサポートが必要です。患者さんが安心して生活を送れるよう、検査や生活指導を行い、再発予防に努めていきます。

特別講演

「抗がん剤による最新治療の話題」

 高齢化などを背景に今や2人に1人はがんになる時代ですが、 同時にがん医療も著しく進歩しています。診断技術はCT(コンピューター断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像)からPET(陽電子放射断層撮影)-CTへ、手術も開腹・開胸から腹腔(ふくくう)鏡・胸腔鏡・内視鏡手術へと変わりつつあります。
 抗がん剤治療も、2000年以前と比べると、効果が高く副作用の少ない薬がそろってきました。ひと昔前は、嘔吐(おうと)・吐き気、脱毛、しびれといった副作用に悩む患者さんが多かったのですが、今では良い吐き気止めが出て苦痛が軽減されるなど、治療が受けやすくなっています。
 このように抗がん剤治療の効果は格段に上がっているのですが、だれでも治療が受けられるわけではなく、それに耐えうる体力・状態であることが必要です。治療前に全身をチェックし、生活習慣病などの合併症がコントロールされているか、認知症の有無、薬の相互作用などを総合的に判断し、それらをクリアした人が治療を受けられるのです。
 患者さんの療養形態にも変化をもたらしました。制約の多い入院治療から、生活の自由度が高い外来治療へと変わりつつあり、患者さんは仕事や家事といった社会的役割をこなしながら治療を続けることが可能となりました。現在では乳がんの抗がん剤治療の9割以上は外来です。
 一方で注意すべき点もあります。生存期間の延長とQOL(生活の質)向上のためには、薬の投与量を維持することが重要です。そのためには、吐き気や痛みを抑えたり、感染症対策などさまざまな支持療法で包括的に対応することが求められます。また、抗がん剤治療を行ってから数年後に発症するリスクのある「晩期毒性」、つまり心臓の病気や二次がんに留意する必要があります。これらに対処する治療法を開発していくことも医療者に課せられた課題のひとつです。
 これからは、治療が受けられる体づくりも大切になります。禁煙や運動、肥満対策、糖尿病の管理、口腔ケアなどに日ごろから取り組み、がん検診だけでなく循環器病も含めた健診を受けておくことをおすすめします。

「がんと遺伝子診断 ~乳がんの関連~」

 米国の有名女優が乳がん発症予防のために両方の乳房を切除したというニュースは記憶に新しいと思います。彼女は、乳がんにかかった親族が多いことから遺伝子検査を受けました。すると、高確率で乳がんを発症する変異した遺伝子を受け継いでいることがわかり、生きることを優先して手術に踏み切りました。
 では、私たちはなぜがんになるのでしょうか。「環境」(化学物質や放射線、ウイルス、炎症など)と「遺伝」(体質、遺伝子の変異・発現異常)の二つが要因として考えられます。これらが重なって、がん遺伝子の過剰発現やがん抑制遺伝子の損傷・不活化といった遺伝子異常が起こり、発がんへとつながっていくのです。
 家族性腫瘍の原因遺伝子は、がんの部位によって多種多様ですが、遺伝子を解析する検査技術はかなり進んでいます。白血球からがんに関係する遺伝子を解析する「遺伝性腫瘍パネル検査」や、遺伝情報をコンピューターで一気に解析するシステムなどは普及が期待されており、今後データを蓄積していく必要があります。
 現在は、がん早期発見のために人間ドックを受診することが一般的です。しかし近い将来、遺伝子情報などでがん発症の確率を調べ、予防のための投薬や手術につなげることを目的にした人間ドックが登場するかもしれません。

「新しい時代の人間ドックとは」

 日本人の主な死因別死亡者は、がんが約3割と最も高く、心疾患、肺炎、脳血管疾患と続きます(2015年・厚生労働省調べ)。がんを中心に幅広い視野で人間ドックなどの健診が必要だと言えます。
 がん発症の危険因子には、喫煙、飲酒、食塩の取りすぎ、運動不足、肥満、野菜・果物不足といった生活習慣が挙げられ、実はこれらは循環器病の原因となる動脈硬化の危険因子と共通しています。これからの人間ドックでは、がんの早期発見・早期治療のための「がん領域」と、動脈硬化を予防する「動脈硬化領域」の組み合わせが大切になります。
 2人に1人ががんにかかる時代ですが、すべてのがんの治癒率を見ると、約半数の患者さんが治癒するようになり、患者の生存率も「5年」単位から「10年」に変わりつつあります。なかでも甲状腺及び皮膚がんは10年生存率が9割に上り、「がんサバイバー」が急速に増加しています。
 そこで今、注目されているのが、「がんの治療が終わってからどのように生活していくか」。治療を終えた後の生活を安心して送り、新たな病気を予防するためにも、生活習慣とがんの関連を視野に入れた人間ドックや検査、生活指導が不可欠なのです。