武庫川学院創立80周年記念「第40回世界健康フォーラム2019・東京『人生100歳時代の生き方上手』―日本から世界への発信―」(NPO法人世界健康フロンティア研究会主催、武庫川女子大学共催、ユネスコ、厚生労働省など後援)が11月6日、東京都千代田区のよみうりホールで開かれました。食と健康の専門家や研究者らが、講演やパネルディスカッションを通して健康に長生きするための秘訣(ひけつ)を話しました。
――「健康な高齢化」 目標
人生100年時代は大変素晴らしい一方、年金、介護・医療費などの問題もあります。これからの課題は「健康な高齢化」が目標で、病気の予防が重要です。近年、遺伝子を調べれば、どんな病気にかかりやすいかわかるようになってきました。それを基に、個人の特徴に応じた予防が「先制医療」です。検査所見にわずかでも傾向が見られたら、運動や食事などライフスタイルを変えるよう意識をしてください。20~40代の方こそ、今から気を付けてほしいですね。
京都大学名誉教授、日本学士院長 井村 裕夫氏
――和食の魅力 世界に
6年前、日本食がユネスコ無形文化遺産に登録されました。日本が1867年のパリ万博に初参加した頃は、日本食は全く知られていませんでした。ところが、私がパリに住んでいた約50年前に3軒しかなかった和食の店が、今では200軒を超え、注目されるようになりました。理由は「健康に良くておいしいから」で、外国人観光客が日本に来る一番の目的でもあります。魅力が世界に定着し、日本文化の中核だと認められている証拠です。
第8代ユネスコ事務局長 松浦 晃一郎氏
――「適塩」 心掛けて
日本食の特徴は、大豆と魚をたくさん食べることで、平均寿命の長さはそのお陰です。しかし、「健康寿命」は10年も短くなっています。原因は食塩の取り過ぎ。政府が発表した食塩の摂取目標量は男性1日8グラム未満、女性7グラム未満ですが、大豆と魚をよく食べている人は12.5グラムも摂取しています。食塩の過剰摂取は血圧を上昇させ、寝たきりにつながる脳卒中のリスクを高めます。
食塩を減らすには、蒸し料理が効果的です。自然の味が引き出され、適切な塩分量でおいしく食べられます。最新の研究では、大豆と魚から多く取れる葉酸には、認知症を抑える効果があると期待が高まっています。和食は「適塩」を心掛ければ、素晴らしい健康長寿食になるのです。
武庫川女子大学 国際健康開発研究所所長 家森 幸男氏
◇パネリスト
・有森 裕子氏(元女子マラソン選手、オリンピック2大会連続メダリスト)
・下方 浩史氏(名古屋学芸大学 健康・栄養研究所所長)
・益崎 裕章氏(琉球大学大学院 医学研究科教授)
・三浦 雄一郎氏(プロスキーヤー、クラーク記念国際高等学校校長)
・家森 幸男氏(武庫川女子大学 国際健康開発研究所所長)
◇コーディネーター
・宮崎 緑氏(千葉商科大学教授 国際教養学部長)
宮崎 日本人の平均寿命は男性81歳、女性87歳で、人生100年時代に近づいてきました。益崎さんの研究「健康に良くなる食と脳の働きの関係」とはどういう内容ですか。
益崎 例えば、「おなかがすいた」と思う脳の感覚は仮想現実で、空腹を感じても体はカロリーを欲していないことがあります。食べ過ぎや糖尿病の方は、この感覚がおかしくなっていることがわかってきました。原因の一つは「食べ癖」で、例えば動物性脂肪をたくさん取ると、脳がもっと脂を欲します。体重が増えて血糖値も上がり、悪循環に陥ります。動物性の脂や甘い物への欲求は、たばこやお酒、ゲーム、インターネットなどの依存と似たことが脳内で起こっているんです。
下方 ダイエットでは飢餓状態となり、脂や甘い物のようなエネルギー効率が良くてすぐに吸収される物が食べたくなります。食べ物の嗜好(しこう)が変わることがあって、それも脳と体の感覚がおかしくなってしまう原因の一つかもしれません。
宮崎 アスリートの方は食事制限をするのですか。
有森 私は「エネルギーを使うから食べる」という認識で、おなかがすいたら食べるけれど、すかなければ食べないという感覚をトレーニング中から植え付けてきました。食べたいという気持ちより、体の感覚を大事にする方が良いパフォーマンスにつながる気がします。
宮崎 つい、おいしそうだから食べたいと思ってしまいます。脳が調整してくれる方法はないのでしょうか。
益崎 秘訣は食べ物と運動です。玄米には、脂に対する脳の依存が和らいで食の好みを変える栄養成分が含まれていることがわかりました。
三浦 僕は玄米が大好きで、父親も100歳を超えても発芽玄米を食べていました。それが元気のもとだったのかもしれません。99歳でモンブランに登ってスキーを滑っていますから。
宮崎 下方さんは、三浦さんが80歳でエベレストを登頂する前にMRI(磁気共鳴画像装置)などで診察されましたよね。
下方 はい。脳の前頭葉の萎縮(いしゅく)が全くなくて驚きました。前頭葉はやる気や理性をつかさどる部分で、萎縮がないのは生きる元気や活力があふれ出ているということです。運動が萎縮を防ぎ、やる気を引き出します。60歳以上の人なら歩くことが大事で、1日6000歩程度で十分です。
有森 「ちょっとだけ頑張ろう」という意識だけでも大事だと思いますよ。少しだけ階段で残りはエレベーターを使ったり、ウォーキングの帰りは電車に乗ったりとか。
益崎 運動の一番の効果は「頭」です。どんな人が認知症になりやすいか生活習慣を調べたデータでは、「規則的な運動習慣のない人」が一番の影響因子として浮かび上がってきました。
下方 認知症の予防策はいろいろ言われていますが、「規則正しい生活」「おしゃべり」「補聴器」などが重要です。おしゃべりは頭を使うので判断力がつきますし、昔の話をして記憶を呼び起こしたり、最近の出来事を話して記憶を定着させたりします。話す行為自体も顔や脳の血流を増やすなど、いろいろな効果があります。耳からの情報量が減ると脳の働きが減るので、聴力が落ちてきたら補聴器を使用することも大事です。
宮崎 三浦さん、何か心掛けていますか。
三浦 山はチームで登ります。長年続けているとその輪が広がり、どこに登ったとか次にどこを登るとか、楽しい会話が自然と生まれています。
家森 「魚と大豆を食べていると葉酸などの値が上がる」ということも指摘したいです。オックスフォード大の研究でも、それらが多い人は脳の萎縮が明らかに少ないと言っています。三浦さん、魚や大豆は食べておられますか。
三浦 朝は出来るだけ魚で、それに納豆が朝の主食です。
家森 まさに!ですね。魚や大豆をバランスよく食べる和食は素晴らしいことがわかりました。しかし食塩が多過ぎるので、「適塩」が非常に大事。食べ方上手が日本中に広がり、日本全体が健康長寿になることを期待しています。
国立音楽大学招聘(しょうへい)教授
元NHK交響楽団首席奏者
日本トランペット協会前会長 北村 源三さん
祝典記念として、元NHK交響楽団トランペット首席奏者、北村源三さんが、「テ・デウム ニ長調」やオペラ<トゥーランドット>「誰も寝てはならぬ」など4曲を演奏。はつらつとした音を会場に響かせ、会場の拍手が鳴りやみませんでした。
2019年度受賞
武庫川女子大学附属高校 創造サイエンスコース食育研究班
食環境の改善に関する優秀な研究を表彰する「モナリザ賞」。2019年度の受賞者は、月に1度ブラウンライス(玄米)ウィークで玄米を食べている武庫川女子大学附属高校食育研究班の「ブラウンライスを摂取した際の人体の健康への影響についての研究」が選ばれ、プレゼンターの松浦さんから表彰状と目録が贈られました。今後1年間研究を行い、次回のフォーラムで成果を発表します。
2018年度受賞者成果報告
「大豆食が培うアスリートの健康」
八戸学院大学 女子ラグビー部 田端ひかる・鈴木佳寿音
――大豆食の効果検証
昨年度モナリザ賞受賞の八戸学院大学女子ラグビー部は、健康問題についての女性アスリートの三主徴(利用可能なエネルギーの不足、運動性無月経、骨粗しょう症)の予防に、大豆食品の摂取が効果をもたらすかを検証しました。納豆、豆腐、豆乳の摂取を週5日・半年間続け、食事制限を設けない女子サッカー部と比較。大豆の栄養素をとることで、エネルギー必要量の充足や生理不順の改善、骨密度の上昇などの効果が見られ、アスリートの健康にも良いことを報告しました。