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写真=岩井崎「龍の松」の前で。津波によって枝や幹が被害を受けたが奇跡的に一部が残った。気仙沼市民の復興への希望の象徴とされる

 宮城県気仙沼市は、カツオやメカジキ、サメの水揚げ日本一を誇る漁業の街だ。子ども記者たちは最終日、10月の完成を目指して建設の最終段階を迎えている新魚市場を訪れた。

 現在の魚市場ではその日も、シイラやキハダマグロの入ったケースが並び、無数の釣りざおを備えたカツオの一本釣り漁船が出港していった。そのわきで、新魚市場の建物が巨大な白色の姿を見せている。

 「住民の方々も完成を楽しみにしてくれている。おいしい魚を全国に送り出す場になってほしい」。工事を担う大成建設・小野良特定JVの深谷華さん(22)は期待を込めた。

 新魚市場は天井や壁、シャッターで囲まれ、カラスや海鳥の侵入を防ぐ。大きなクレーンも整備され、漁船から魚を下ろすのを助ける。夏場でも室温15度を維持する設備があり、鮮度を保ったまま魚を出荷することができる。

 魚市場は、気仙沼を象徴する場所だ。震災では地震で地盤沈下し、多くの設備が津波にさらわれた。それでも3か月後には水揚げを再開し、地域の復興をリードしてきた。

 新たな施設の誕生で、漁業の街はさらにたくましく成長しようとしている。

 最終日の取材には、気仙沼市出身のシンガー・ソングライターの熊谷育美さん(33)に同行してもらった。

 熊谷さんは7年前、市内でテレビ番組のロケを終えた直後に被災した。高台に逃げて無事だったが、街をのみ込む津波を目の当たりにした。海では今、防潮堤の工事が進んでいる。「津波は怖いけど、防潮堤で海が見えなくなる恐怖もあって、複雑な気持ちですね」と語った。

 震災後、全国からボランティアや支援物資が集まり、人の温かさに感動して生きてきたという。今年1月17日には本プロジェクトの一環で、阪神大震災の被災地・神戸市の学校を訪れ、被災した街の復興や防災の重要性を生徒たちに伝えた。

 熊谷さんは今も、気仙沼で暮らしている。移動するバスの中で、古里で歌い継がれる「海潮音(みしおね)」を披露してくれた。

 赤 白 黄色 青
 大漁旗がヨーオ
 潮風にたなびいて
 船出を待っている
 金波 銀波を乗り越えて
 海の男がヨーオ
 夢追いかけて
 七つの海へ

 優しい歌声が、子ども記者たちの心に響いた。

 最後に訪れたのは、今年2月に完成した宮城県気仙沼市の「気仙沼駅前プラザ」だ。2階建て、延べ床面積1300平方メートルの複合施設には、とんかつ料理店やハローワークも入居し、人々の暮らしを支えている。

 子ども記者は、同プラザの建設工事を担当した大和リース仙台支社の渡邊博康・規格建築第一営業所長から、基礎工事や組み立てなど工法の解説を受けた。渡邊所長は「被災地では現在、防潮堤や地盤のかさ上げ工事が中心になっている」と説明していた。

 被災地の沿岸部をバスで巡ると、「ここには住宅があった」という更地がいくつもあった。多くの工事車両とすれ違うたび、土煙が舞い上がった。復興に向けた努力は、まだまだ続いている。