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 記者を案内したのは学生グループ「阿蘇の灯(あかり)」を設立した橋村さくらさん(22)ら4人。地震発生当時、村外に帰省していた橋村さんは「無力さを痛感した」と振り返る。「南阿蘇のために何かしたい。同じ思いを持つ人に機会を提供したい」と考え、震災から半年後に復興祈念イベント「みずあかり in 南阿蘇」を開催。地区の住民と学生が再会する場となった。以来、語り部活動などを通じて南阿蘇と多くの人をつないできた。

 橋村さんらはかつて住んでいたアパートの前や通学路をたどりつつ、子ども記者に地区の被害状況を説明。学生が生き埋めになったアパートの跡地では、車のライトを頼りに学生仲間や近隣住民が協力して救出活動に当たったことを紹介し「だれがどこに住んでいるのかみんなが知っていたので、救出が早く進んだ。地域のつながりが減災対策になる」と共助の大切さを訴える場面もあった。

 また、「南阿蘇の良いところは」との質問に、4人は「自然と人の魅力は言葉で表せないほど」「動物に囲まれて幸せだった」などと話し「またここに帰ってきたい」と、村の復興に寄せる思いを語った。

 阿蘇の大自然と農業に触れる、修学旅行生向けの「ファームステイ」(農家民泊)も、熊本地震で打撃を受けた。ファームステイを実施する公益財団法人「阿蘇グリーンストック」の石川博崇さん(35)は、地震前は受け入れ人数が年間2000人を超えていたものの、地震が起きた昨年度は71人に激減、今年度も状況が改善していないことを説明し「ファームステイは、阿蘇の草原の維持に野焼きや放牧が欠かせないことなどを知ってもらう良い機会。再び修学旅行生が戻ってきてくれれば」と語った。今後はファームステイのメニューに防災教育など新たな体験学習を盛り込むことも検討し、PRに力を入れるという。

 子ども記者は、ファームステイ受け入れ農家であり「体験民宿なかむら牧場」を経営する畜産業中村和章さん(37)方で、特産のあか牛を使ったハンバーガーや郷土料理を味わった後、牧野(ぼくや)へ移動。青々とした高原では約50頭の肉用牛が放牧され、草を食んでいた。牛に触れ笑顔をみせる記者に中村さんは、「子どもたちの訪問が減って寂しい。今度は皆さんが阿蘇の魅力を発信してほしい」と呼びかけた。

 最後に訪れた熊本県最大の仮設住宅団地「益城町テクノ仮設団地」では、震災から1年4ヶ月が経った今も516戸のプレハブ住宅に被災者約1300人が暮らす。

 東北の仮設住宅では、誰にもみとられずに亡くなる「孤独死」が相次いだ。テクノ仮設団地で見守り活動をしている看護師の団体「キャンナス熊本」の山本智恵子代表(39)は、「独居や高齢などのハイリスク者へは定期的に訪問している」と説明し「お茶会や朝市を開いて、孤立を防ぎ、生きがいをつくってきた」と住民交流の重要性を強調。働き盛りの男性も参加しやすいよう、お酒を飲みながら集まる夜のイベントなどユニークな試みも紹介した。

 同団地内で191戸の応急仮設住宅を建設した大和リース熊本支店の江頭正弘さん(59)は、高齢者向けスロープや二重サッシなど住環境を向上させる工夫を紹介。担当区画を50日間で完成させた苦労について子ども記者から尋ねられ、「阪神・東日本などの自然災害に対応してきた経験から、早く被災者を何とかしてあげたいと精一杯頑張った」と振り返った。