HOMEリレー活動特別出前授業「防災について学ぼう」1~2時間目

“自分の好きなこと”を防災へつなげる

 2022年1月8日、地震の専門家や防災に取り組んでいる先生をお招きしたワークショップ『防災について学ぼう!』がデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO〈キイト〉)で開催されました。防災に関心のない人にいかに伝えていくか、好きなことや得意なことを防災・減災に役立てる、そのヒントがありました。

■「未来へ紡ぐリレープロジェクト」について
阪神・淡路大震災20年の節目となる2014年度の岩手県訪問を皮切りに、震災を知らない子どもたちが震災の悲しみや教訓を風化させないために、東北沿岸部や熊本の被災地を訪問し、彼らなりの言葉で防災の必要性や、復興への希望を次代へと紡いできました。

Bloom Works 先生

関心がない人に伝えるには?

 日本のボイスパーカッションの第一人者で兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科修了のKAZZさん、アコースティックシンガーソングライターで防災士の石田裕之さんによる“防災音楽ユニット”Bloom Worksが、最初の授業。

 災害はなくすことはできないけど、必ずまた再会しようという思いを込めた合言葉、「みんなまた絶対笑顔で会いましょう!」と、みんなでポーズを決めて授業がスタート。身長について悩む男子の心情を歌った『171』は災害用伝言ダイヤルを、ラブソング『一回だけだよ?』では昨年改定された避難指示など、防災のメッセージを込めた歌詞が軽快なリズムに乗る。ポップな演奏を織り交ぜた授業に、参加者の緊張が次第にほぐれていく。「途中でみんなが笑顔になっていくのを感じました。きっと、授業を聞いているだけじゃなくて発信してくれると思った」とKAZZさん。

 しかし、ふと思うのは、音楽で本当に防災なんてできるの? 音楽で人の命は救えるの? という素朴な疑問。その答えは実際の災害現場にあったという。

歌が人の命を救う

 2004年に起きたスマトラ島沖地震。この地震による津波の影響により世界各地で約22万人もの被害が出た。Bloom Worksの2人は、震源地近くの島で人々を救った歌があったという話を耳にし、インドネシアのアチェ州シムル島を訪れた。その島には、100年前の津波の教訓を織りこんだSmong(スモン)という歌が伝承されていて、島民の多くは歌を思い出して高台に避難したのだった。

 公用語で歌いやすく広められているバージョンと、100年前から先住民が歌い継いできた歌は全然違っていた。「こんなに形が変わって他の島に広まっていいんですか」と質問すると、「たとえ文化として形が変わったとしても、命が助かればいい。だから日本でも自分たちなりのスモンを作って」と背中を押された。それから2人は、〈BOSAIをカルチャーに!〉をテーマに活動。防災のワークショップや音楽フェスなどで、いざという時に「大丈夫?」と声をかけ合い、被災地だけでなく、次に災害が起きるかもしれない“未災地”ともつながり、助け合える関係を作ってと呼びかけている。

 「アーティストとしてできることを考え、自ら動くことでみなさんと出会うことができました。今度はみなさんの番。僕たちでは思いもよらない、防災を身近にできる工夫はあると思います。どうやったら防災に関心がない人にも興味を持ってもらえるか、みなさんなりのアイデアをぜひ考えてほしい」と参加者に呼びかけた。

Bloom Works 先生
KAZZさん、石田裕之さんによる、神戸発・防災音楽ユニット。「阪神・淡路大震災の経験」と「被災地支援の教訓」をもとに、笑顔の花を咲かせていきたいという思いで活動している。防災のメッセージを織り交ぜたポップな音楽を発信。オシャレな防災グッズも提案し、企業とのコラボなど多彩に活動を展開している。
Bloom Works公式ホームページ:https://bloom-works.com/

巽好幸(たつみよしゆき) 先生

地震と火山と、その恩恵

 地球が誕生してから今の姿になるまでの46億年の歴史を研究している巽先生は、「日本列島には、地球をおおう十数枚のプレートのうち四つのプレートがせめぎ合い、世界の活火山のうちの10%、この小さな島国に111もの活火山がある。世界の地震の10%ほどが日本で起きている。地球の中で最も地震や火山が多いのが、私たちが暮らす日本」と、地震を起こし火山をつくるプレート運動の仕組みや火山活動について解説。

 「もうすぐ地震が起こるという噂(うわさ)をよく耳にしますが、残念ながら地震が起きる前兆現象はまだ科学的には捉えられていません。ただ、日本は地震がものすごく多いことは事実。普段から注意をしておくことは必要です」と災害に備える重要性を説いた。

 「1995年1月17日の阪神・淡路大震災の前日(16日)の地震発生確率は0.03〜8%。地震はいつどこで起きてもおかしくありません。地震発生確率は、最低レベルの危険性を示しているに過ぎません」

 しかし、地震や火山は人に悪影響を与えるばかりではない。「日本は海に囲まれ、70%が山岳部という美しい山々と豊かな海の恵みを育み、その恩恵を私たちは受けています。瀬戸内海や湾ができたことでおいしい食べ物がつくられるようになりました。地震や災害に目を向けるばかりでなく、その恩恵を受けていることにも目を向けてほしい」と温泉や食べ物の画像を織り交ぜながら説明した。

過去から地球を学び、来たるべき災害に備える

 地震や火山の記録が残っているのはわずか2000年ほど前からで、長い日本列島の歴史の中では、私たちが想像できないような超巨大噴火が起きている。過去12万年の間には11回起きていて、今後100年間の発生確率は1%。巽先生らの共同チームは、2020年1月に地球深部探査船「ちきゅう」による鹿児島県三島村薩摩硫黄島沖(鬼界カルデラ外側)の研究掘削で、過去2回の超巨大噴火を確認している。

 「日本は、歴史に残っていないような噴火や地震が今後起こりうる国。仕方ないとあきらめるのではなく、少しでも被害が少なくなるようにみんなで考えましょう」と呼びかけた。

 「日本はあまりにも災害が多く、ある種の災害慣れをしている民族だと思います。無常感を美しいと思うような。ただ昔とは人口が違うので、過去の災害と同じような感覚で向き合えば取り返しがつかない。瀬戸内海でおいしい魚が取れるのは、そこが直下型地震の巣だから。地震や火山活動によって日本は誕生し、その地形によって自然の豊かな恵みを受けていることを私たちは認識した上で、きちんと減災のための備え、科学的になぜ起きるのかということも知っておかないといけない」

 小学生には少し難しい内容かと思われたが、「理科で勉強したことがあったから、おもしろかった」という子が何人もいた。巽先生自身、「本当に一番伝えたいことは、科学的にどこまでわかっているのか。そのエッセンスは伝わったと思います」と手応えを感じていた。

巽好幸 先生
京都大学総合人間学部教授、同大大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授、海洋研究開発機構プログラムディレクター、神戸大学海洋底探査センター教授などを歴任。現在は同センター客員教授、ジオリブ研究所所長。マグマ学者として様々なメディアに出演。
ジオリブ研究所ホームページ:https://geo-live.jp

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主催/読売新聞大阪本社
特別協賛/大和リース
協賛/富士電工
後援/兵庫県、神戸市