HOMEリレー活動体験者の声 語り継ぐ

出口さん(右)から高速道路を支える橋脚の亀裂について説明を受ける橋本さん(左)と松井さん(中央)。外観は軽微な損傷も詳細調査の結果、内部までひび割れが及んでいた

 阪神大震災20年の節目ではじまった、関西に住む子どもたちが災害の被災地を訪れる「未来へ紡ぐリレープロジェクト」。2019年参加の兵庫県立舞子高校環境防災科3年の橋本来夏(こなつ)さん(18)と、18年参加の芦屋市立精道中学校1年の松井彩凛(あかり)さん(13)が、阪神高速湾岸線下にある震災資料保管庫(神戸市東灘区)を見学。阪神高速の復旧工事で陣頭指揮をとった出口英雄さん(79)に話を聞いた。

21世紀に利用してもらえる高速道路を

 阪神高速5号湾岸線。高速道路直下に、被災した高速道路の構造物を保管展示している震災資料保管庫はある。屋内には、亀裂が入ったコンクリート片、折れ曲がった分厚い鋼鉄などを展示。どれも震災の巨大なエネルギーをまざまざと見せつけるものばかり。

 「写真や話だけではわかりづらいことも、被災構造物は多くのことを物語ってくれると思い展示を決断しました」と、震災発生後に神戸線復旧建設部長に任命された出口さん。震災直後の混乱の中、次世代に被災構造物を残すという選択には異論もあったそうだ。しかし、想定外だった震災に対し、被災建造物は衝撃度や加わった力の方向など多くのことを物語る。現地で2〜3か月を調査・研究に費やし、具体的に復旧工事を開始したのは4月。28キロにわたって壊れた巨大な構造物。2年で開通させよという指令が出たものの、出口さんは「正直4年はかかるだろうと思っていた」という。しかし、寝る間も惜しんで復旧工事の工程を練り、2年間での工事完了のめどが立ったのは7月ごろ。工事に関わる職員に向けて、「以前よりも、強く美しく環境に対応した、21世紀に多くの人に使ってもらえる道路を造ろう」と呼びかけた。工程はさらに検討を重ね、結果的に工期をさらに短縮。623日(1年8か月)で全線開通することができた。

自分にできることからはじめる

 これまで、学校や人と防災未来センターで阪神大震災のことは勉強済みの橋本さん、松井さんの二人も、大きくひび割れ、歪曲(わいきょく)している巨大な構造物を間近で見るのははじめて。

 松井さんは東北訪問後、母親や姉と一緒に自主的に避難訓練をした。2018年の大阪北部地震では、ブロック塀倒壊の危険性が指摘されていたにもかかわらず、簡易検査のみで事故を未然に防ぐことはできなかった。避難路を家族でチェックすることは大切だ。

 「高速道路の修復のお話を聞いて、小さな亀裂でも見逃さず中まで調べていてすごいなと思いました。コンクリートの亀裂や鉄がグニャッと曲がっているのを間近で見て、被害の大きさが直接伝わってきたし、実際に見ると経験のない私たちも伝えることができると思いました」と、写真や話だけでは伝わりにくい被災構造物展示の意義を感じていた。

 橋本さんは見学後に「阪神高速道路が作られた時には緊急搬送路として利用する計画だったと聞きましたが、結果的にそれが寸断されてしまいました。当時の計画に疑問を感じなかったのでしょうか」と質問。出口さんは「通常であれば、高速道路は出入口で一般車両を規制できます。しかし、阪神大震災では機能しませんでした。我々が再建した道路は、あの規模の地震でも、せめて2~3日の緊急工事で車両の通行が可能になるように作りました。その時に、はじめて緊急道路の役割が果たせると思います」と説明。代替の手段を講じておく交通ネットワークは大事で、湾岸線の早期全線完成もそのリスク回避につながると、震災を教訓に代替ルートの確保も想定していると話す。

 環境防災課で学ぶ橋本さんは、「実際に経験していない話をすることは被災者に失礼になるのかなと思っていたけど、自分が見聞きしたものも他の人に伝えていかないと震災の教訓が途絶えてしまう。自分がたくさん吸収して、お話しできるようにしようと意識が変わりました」と語り継ぐことの意味を考えている。進学する大学での専攻は、防災とは直接関わりはないというが、「自分ができる範囲で防災について考え続け、伝えていきたい」と話す。

 阪神大震災から25年。ボランティア、防災士など、震災を機に一般の人が被災地や防災に触れる機会は増えた。特に若年層の防災意識は変化し、家庭では子どもから家庭の防災について指摘されることも増えているようだ。地震に限らず、自然災害は常に身近に起こりうる。実体験がなくても、体験者の声を伝えていくことが、次の災害への備えになる。橋本さん、松井さんのその思いと行動が、これから一人でも多くの人に届いていくことを願う。

震災資料保管庫
1999年完成、2009年リニューアル。復旧までの歩みを紹介するビデオ上映後、被災構造物を見ながら係員が被災状況を説明。詳細なミニチュア模型もあり、損傷箇所がわかりやすい。事前予約制。
所在地:神戸市東灘区深江浜町11‐1

開館日:毎月第1・3水曜日、および第1・3日曜日
見学時間:1日3回(10時、13時30分、15時30分)
所要時間:約1時間
https://www.tech-center.or.jp/hokanko/


主催/読売新聞大阪本社
後援/宮城県、兵庫県、石巻市、女川町、神戸市
協賛/コンステック、新コスモス電機、大和リース、モイネットシステム、淀川製鋼所