世界遺産登録20周年記念フォーラム
姫路城と法隆寺
-歴史に学ぶ、未来を語る-
【主催】姫路市、法隆寺、読売新聞社
【協賛】鹿島建設、ビーバンジョア
(2013年12月17日:読売新聞大阪本社版朝刊記事を基に作成)
和の心 次代に
日本が世界に誇る「木の文化」の象徴である姫路城(兵庫県姫路市)と法隆寺(奈良県斑鳩町)をいかに守り、未来に伝えていくか。世界遺産登録20周年を記念したフォーラム「姫路城と法隆寺――歴史に学ぶ、未来を語る」が今月1日、姫路市市民会館で開かれた。世界遺産条約の意義や、世界平和や地域振興との関係など様々な視点からの議論に、市民ら約600人が熱心に耳を傾けた。
太田 宏・読売新聞大阪本社社長
今回、姫路市、法隆寺と記念のフォーラムを開いたのは、聖徳太子が亡くなられて1400年の2021年に向け、法隆寺と一緒に始めた「聖徳太子1400年の祈り」キャンペーンの一環です。姫路城、法隆寺は、日本が誇る木造建築の粋を集めた宝ですが、それゆえ維持管理が大変な面もあります。今後、どう守っていくか、このフォーラムを参考にしていただきたい。
多様な文化 認め合う
松浦晃一郎・元ユネスコ事務局長
日本が世界遺産条約に参加したのは、ユネスコ(国連教育・科学・文化機関)で条約が採択されて20年後の1992年だった。翌年、姫路城と法隆寺が文化遺産、屋久島(鹿児島県)、白神山地(青森、秋田両県)が自然遺産になった。以来、日本は世界遺産に積極的な姿勢をとってきた。
世界遺産は現在、981件あり、8割が文化遺産、2割が自然遺産だ。条約の運用が始まった頃、文化遺産は西欧的な「石の文化」が中心だった。それを前提に、文化遺産は西欧の中世から近世の宗教的な建築や歴史都市に集中していた。
しかし、サハラ砂漠以南の「土の文化」を持つアフリカの国々、「木の文化」を代表する日本が条約に参加し、対象に加わることでグローバルになった。
日本にある世界遺産は17件で、世界で13番目の数。誇りにしてよい。ただ条約は190か国が批准しているが、世界遺産のない国が40近くある。そうした国々の支援も重要。諸国間で文化交流を進め、相互理解を深めて、人の心に平和の砦(とりで)を築くのだ。
このため皆さんが外国の世界遺産をご覧になる時、歴史的、文化的背景を事前に勉強されてから見ていただきたい。逆に姫路城や法隆寺を訪問される外国の方々にも、そうした背景をわかっていただきたい。
また、木の文化を次の世代に引き継いでいくには、保全措置をしっかりやっていく必要がある。景観にも注意を払っていただきたい。バッファゾーン(緩衝地帯)の外でも高層建築が建てば景観を損なうことがある。
最後に地域社会の役割の重要性を強調したい。住民が世界遺産を活用し、観光客らに理解を深めてもらう。そういうことを通じて文化の多様性を守りながらグローバル化を進める。それが世界の平和を守るという世界遺産条約の目的につながる。
合唱
姫路市立広嶺中学校コーラス部
基調講演と討論の合間、全国大会の出場経験がある姫路市立広嶺中学校コーラス部が合唱を披露。市制100周年を記念した「交響詩 ひめじ」の「第2章 城―千姫によせて」と、ユネスコ・パリ本部公式ソング「Peace of Mind」の2曲を、澄んだ声で歌い上げた。城之内ミサさんも伴奏で参加し、会場に大きな拍手が響いた。
――世界遺産との関わりなどを教えてください。
城之内 2006年から平和芸術家として、地域の方や子どもと「世界遺産トーチランコンサート」を開き、皆さんと世界遺産保護の重要性や世界平和について考えている
大野 ユネスコの世界遺産の意義と、日本を平和な社会に導きたいという聖徳太子の思いは同じ。世界平和と世界遺産の大切さを結び付けて、いろいろと話をさせていただいている
石見 姫路城は明治、大正、昭和、平成と修繕を続けてきた。美しい姿を保つのは大変な努力が要る。残してくれた先祖への恩返しとして大事に次の世代に伝えていきたい
――ユネスコ平和芸術家の使命はどういうものですか。
城之内 音楽を通して命や物を大切にする心を育み、国内外の友達と仲良くして互いの文化を認め合うことにつなげることだと思っている
――世界遺産と町づくりの関係をご説明ください。
石見 姫路城の『平成の大修理』では、工事用建屋内にエレベーターをつけ、観光客に工事現場を見ていただいている。都市計画で、城や石垣の高さに合わせて建物の高さを制限し、町全体の景観を考えている
――法隆寺も「昭和の大修理」がありましたね。
大野 昭和の大修理は半世紀以上にわたって行われた。終了後、技術者らが姫路城の修理に携わった。そういう意味で、法隆寺と姫路城は双子の兄弟だ
――姫路城、法隆寺の世界遺産登録の意義は何ですか。
松浦 姫路城と法隆寺は、世界的にもまれな大型の美しい木造建築。世界遺産のグローバル化、多様化に大きく貢献したと言える
石見 姫路城は常に修繕しているので漆喰(しっくい)、瓦、木造、造園といった、いろんな技術が継承されている。また、景観を大事にする気持ち、歴史に対する尊敬も生まれる
――「聖徳太子1400年の祈り」キャンペーンは、なぜ始めたのですか。
大野 外国人と平和活動をした時、お互いの平和観が違うと思った。まず古い時代から日本に伝わる平和の精神、和の心を認識する必要があると考えたのがスタートだ
――世界遺産を未来に引き継ぐため何をすべきですか。
石見 市民との連携が大切。子どもたちも町の説明ガイダンスをしてくれている。いろんな形で町づくりの中にはめ込んでいくことで、後世に伝えていきたい
大野 世界遺産は市民の盛り上がりで推薦されるケースが増えてきた。市民に愛されている世界遺産が増えれば、世の中が平和になると思う
城之内 なぜユネスコが人類の遺産を守ろうと努力しているか。絶対に人類が残すべきものがあるということ。それを脈々と伝えていくことが重要と思っている
――まとめの一言をお願いします。
城之内 自分にできることをすることが大切。それが世界遺産保護や世界平和につながる。そうしたことを日々、話せる環境にあったらよいと思っている
大野 世界遺産は人類の幸福のためにあり、皆で守らなければならない。この気持ちを風化させないために、皆さんにも頑張っていただきたい
石見 世界遺産を中心に美しい町をつくり、来られる方を心からもてなしたい。姫路で学んだ子どもたちが世界に向かって雄飛していくきっかけになるような町になれば
松浦 姫路城を訪れる観光客の約1割が外国人。日本の文化、歴史を外国人にしっかり理解していただく努力をし、文化交流を世界的な規模で深めてほしい