「和」のこころを語るリレー塾
―被災地からの発信―
【主催】法隆寺、読売新聞社
【共催】福島会場=郡山市、郡山市教育委員会
宮城会場=石巻市、(財)石巻市文化スポーツ振興公社
岩手会場=大槌町
【協賛】ビーバンジョア
(2013年3月21日:読売新聞大阪本社版夕刊記事より)
復興 助け合いの精神で
法隆寺(奈良県斑鳩町)と読売新聞社は、東日本大震災で被災した東北3県を巡る「『和』のこころを語るリレー塾―被災地からの発信―」を2月27日~3月1日に福島県郡山市、宮城県石巻市、岩手県大槌町で開いた。寺を建立した聖徳太子が説いた「和」の精神をテーマにした大野玄妙管長と女優の紺野美沙子さんの対談に、3会場で計約480人が耳を傾けた。
話さなければ苦しみ伝わらぬ
大野玄妙管長
聖徳太子の1400年御遠忌(2021年)に向け、同寺と読売新聞社が取り組む「聖徳太子1400年の祈り」キャンペーンの一環。石巻市で2月28日にあったリレー塾には約150人が参加した。
石巻市は死者3147人、行方不明者448人(2月末時点)。震災前より人口が約1万人減り、震災2年を迎えても復興の道のりは遠い。
大野管長はまず、復興に向けた心の持ち方について語りかけた。
古くから日本人に伝わる助け合い、思いやりの心と、大乗仏教の精神を聖徳太子が融合したものを「和」と説明。聖徳太子の時代から現在まで受け継がれ、「日本では他人が幸せでなければ、自分も幸せになれないという考えが浸透している」と強調した。
参加者からの意見も紹介された。乏しい物資を分け合った際に和の大切さをかみしめたという人がいた反面、ガソリンがなくて給油を待ちわびる姿を「我慢強い、礼儀正しいとほめられ、美談にされるのは複雑な思い」と、和の心を保つ難しさに言及する人もいた。
和の精神で被災者に寄り添う
紺野美沙子さん
紺野さんは「日本は豊かになるにつれ、若い人を中心に個人主義が広がっていったと思う。和の心は、失われつつある」と危機感を示し、「沿岸部の漁村や集落で助け合って暮らし、和の心を実践してきた多くの人々が震災の犠牲になった」と話した。
大野管長は、自然について「人々が恵みだけでなく、災害をはじめとする脅威も受け入れ、助け合って生きてきたことが和の文化を作り出した」と締めくくった。
震災2年を迎えて記憶の風化を心配する声が多くあがる中、大野管長は「和の精神は『言わない文化』をも生み出した」としたうえで、「話さなければ、本当の苦しみは伝わらない」と強調。「震災のこと、亡くなった方々を決して忘れないよう、自らの体験を発信してもらいたい」と訴えた。
紺野さんは「和の精神を持って、被災した人たちに寄り添うために、日本中の人、世界中の人に東北に来ていただけるよう、今後も、被災地の復興を支援する活動を続けたい」と結んだ
「三宝」敬う太子の教え
仏=目標であり理想
法=方法・計画
僧=助け合う仲間
リレー塾を終えた大野管長に、今後の支援への考え方を改めて聞いた。(奈良支局 有留貴博)
石巻市と大槌町では、亡くなられた方々、まだ行方がわからない方々を思い、海に向かってお経を唱えさせていただきました。訪問で、復興からほど遠い被災地の現状を知ることができ、いまだにがれきが残る大槌町では、復興の難しさも耳にしました。
話を聞いて感じたのは、やはり、聖徳太子が説かれた「和」の精神です。
太子の十七条憲法の第2条には「あつく三宝を敬え。三宝とは仏・法・僧なり」とあります。大乗仏教は、みんなが仏になることを説いています。仏は目標であり、理想です。法は目的達成のための方法・計画。僧は目的のために助け合う仲間を意味します。
復興には何年もかかるでしょう。その中で、住民のみなさんで理想のまちのあり方を共有したうえで、復興を進めていっていただきたい。
一方、被災地以外の地域の人々は、片時も忘れないという思いを持ち続け、その中で自分たちにできる行動をしてほしい。また震災の教訓を学び取ってほしいと思います。