kumo_56_gold_bottom_l 法隆寺フォーラム2011 kumo_56_gold_bottom_r

【主催】法隆寺、読売新聞社、NHK大阪放送局
【協賛】大阪青山大学、図書印刷、ビーバンジョア
(2011年10月24日:読売新聞大阪本社版朝刊記事より)

つながる和のこころ
 聖徳宗総本山・法隆寺(奈良県斑鳩町)と、読売新聞社が、寺を創建した聖徳太子の1400年御遠忌(ごおんき)(2021年)に向けて実施する「聖徳太子1400年の祈り」キャンペーンの第1弾、「法隆寺フォーラム2011」が10月1日、NHK大阪ホール(大阪市中央区)で開かれた。太子が説いた「和」の精神を、現代の日本にいかに生かすか、白熱した議論に、約1200人が聞き入った。

主催者あいさつ 

太田 宏・読売新聞大阪本社社長
 法隆寺の創建時、国内外で様々な難しい状況がある中で、太子は皆が仲良く、いさかいをしないようにという願いを込めて十七条憲法を作りました。大きな混乱の中にある今の日本においても、「和」を追求する精神は大きな光を放つと思います。

基調講演 

目標や仲間不可欠
大野玄妙・法隆寺管長

  太子が提唱された「和」の精神は、広く知られる日本の精神文化の一つです。海に囲まれた狭い国土で、人々は自然の恩恵や脅威を共有してきました。限られた資源を分かち合い、助け合う営みの中で、思いやり、いたわり合うという民族性を養い、共生の文化をはぐくんできました。
 太子が学び、研究されたのは大乗仏教の菩薩(ぼさつ)思想です。皆が良い行いを実行し、救われるという考えです。つまり「和」の社会、慈悲の世界に変えていく人作り、国作りをしていくことだった。
 十七条憲法第2条に「あつく三宝を敬え。三宝とは仏・法・僧なり」とあります。大乗仏教では、みんなが仏になることを説いています。仏は、目標であり、理想でもある。法は目的達成のための方法、計画であり、僧は目的達成のために共に助け合う仲間でした。
 「目標や理想」「方法や計画」「仲間」という要素は、人間社会に本来的に必要で国や社会から学校、グループ、家族に至るまで、これらがしっかりしていれば、何事もうまくいくと思います。
 太子は菩薩の行である四摂法(ししょうぼう)(布施(ふせ)、愛語(あいご)、利行(りぎょう)、同事(どうじ))を重視されました。布施は施しで、愛語は優しい笑顔と言葉で接することです。利行は利他の行で、同事は相手の立場になることになります。
 「和」の社会どころか、ばらばらだと思っていた日本人の心が、東日本大震災では直ちに一つにまとまった。教わったわけではないのに四摂法が、自然に実践されたのです。今こそ、日本人の「和」の精神を再構築し、新しいあるべき姿を見いだして、よりよい形で未来につなげる努力をする時期だと思います。

パネルディスカッション

明石 科学の発達で生活水準が上がった20世紀は、戦争を繰り返した世紀でもあった。21世紀は米同時テロが起き、米国のアフガニスタン、イラクへの攻撃があった。ただ、今世紀こそ人々が国籍、文化、宗教を乗り越えて共通点を発見すべき時だと思います

大野 仏教徒の間では、お釈迦様が入滅されてから約500年ごとに社会の思想や風潮が変動する、という考え方があります。
 諸説ありますが、入滅は紀元前5世紀前後で、500年後に既成の仏教への批判から大乗仏教が成立、西暦500年前後には中国で末法思想を説く人が増えました。1000年頃は日本では貴族社会が混乱して武家社会に移り、その500年後は戦国時代。さらに500年後が今なんです。
 この先、今までと別の通念や習慣が通用することになると思います。よく考えて次の世代のために行動せねばなりません

紺野 開発途上国では生きることがシンプルです。老いて亡くなる時も家で亡くなる人が多い。それぞれの民族、宗教のやり方でお葬式をします。ところが日本では最近、直葬と言って葬儀を一切せず、いきなり火葬しておしまいということが増えているそうです。子どもたちは、人間が年を重ね、亡くなっていくことを、生活の中で実感できなくなっています。
 物や情報があふれ、人間の幸せや豊かさって何だろうと、考えなくなってしまいました。不幸にも東日本大震災が起き、生きるとは何なのか、豊かさや幸せって何だろうと、日本人全てが向き合うことになった時代が今だと思います

明石  カンボジアなどで危機的状況を収拾する際、できるだけ冷静に、自分と違う意見の人の話に虚心坦懐(たんかい)、耳を傾け行動することが鍵になりました。皆の意見をよく聞けということは太子も十七条憲法の中で繰り返し言っている。凡夫といえどきちんとした意見を持っているわけだから、互いによく耳を傾けよう、と太子は言っています。我々が現代に言う民主主義を、太子は自ら体現していたことに感動します

大野 今までの思想や慣習をいきなりやめて、別の角度から見直した生活をしようとしても、なかなかうまくいかないと思います。皆が一緒に、「和」の社会を構成しつつ、どういう方向が一番ふさわしいかを共に考え、見いだしていくことが必要で、最低10年かかると思います

紺野 カンボジアの貧しい村で、日本の援助による井戸を囲み井戸端会議をやっていて、絆を深める社交の場所になっていた。今の日本にも同様の場所が必要では。震災で多くの方が仮設住宅に暮らしておられるが、おしゃべりができる集会所が必要でしょう。人間関係が希薄な都心部でも触れ合いの場所づくりが必要です

明石 自分の置かれた場所できちんとした共同体を作ることが大事ですね。言いっ放しでなく、現実を踏まえ、将来を見据えた世論を作り上げるために、もっと議論し合わないと。十七条憲法で聖徳太子が言っておられることです

大野 世界の平和を乱す諸要因の中には宗教の問題もある。原理主義というか行き過ぎた宗教観もありますが、本来、宗教は人が必要として成立したもので、先に宗教ありきではない。押しつけるものでなく、提供するもの。それをしっかり踏まえれば、何が正しく間違っているかが分かるのではないでしょうか