キャンペーンの趣旨
法隆寺と本社 10年間キャンペーン
(2011年7月12日:読売新聞大阪本社版朝刊記事より)
震災復興と歩調合わせ
奈良県斑鳩町の聖徳宗総本山・法隆寺と読売新聞社は、寺を創建した聖徳太子(574~622)の1400年ご遠忌(おんき)(2021年)に向け、今年から10年間にわたって「聖徳太子1400年の祈り」のキャンペーンを始める。東日本大震災の被災地復興と歩調を合わせながら、太子の教えである「和」の精神を広く伝えていく取り組みだ。
聖徳太子は、蘇我、物部両氏の抗争を経て、崇峻(すしゅん)天皇が暗殺された翌年の593年に推古天皇の摂政に任命された。憲法十七条の第1条に「和を以(もっ)て貴(とうと)しと為(な)す」を掲げたのは、氏族らが覇権を争うなか、「和」の精神を最も重要なものとし、すべての人々の平穏な生活を願ったからとされる。
フォーラムや展覧会
最初の事業となる10月1日の「法隆寺フォーラム2011」(大阪市中央区のNHK大阪ホール)では、元国連事務次長の明石康さんや俳優で国連開発計画親善大使の紺野美沙子さんを招き、グローバルな観点で「和」の力や可能性を未来にどう生かすかを探る。フォーラムは来年9月29日に東京国際フォーラム(東京都)でも開催する。
また13年以降、同寺に安置される国宝「夢違観音立像(ゆめちがいかんのんりゅうぞう)」などを中心とする展覧会を「太子信仰」ゆかりの地などで開く。
大野玄妙(げんみょう)管長は「すべての人の幸せを願った太子の心にかなう活動にしたい」と話している。
同寺は607年に聖徳太子と推古天皇が建立。創建時の若草伽藍(がらん)は670年に火災で全焼し、後に伽藍が再建されたとされる。金堂や五重塔などがある西院は、現存する世界最古の木造建築として知られる。
寺宝には、鞍作鳥(くらつくりのとり)(止利(とり)仏師)が造った金銅の「釈迦三尊像」や、明治時代まで白布に包まれていた秘仏「救世(くせ)観音立像」など国宝38件がある。1993年、国内で初めて世界文化遺産に登録された寺でもある。
日本人の精神性 再構築を
東日本大震災の発生で、自分の家族の安否もわからない被災地の高校生が、地元でボランティア活動に汗を流すなど、みんなが一つになりました。
仲間意識や団結力といった「和」の心が、まだ日本人に残っていたのです。だからこそ、その心を確かめ、人々の平和観について考え直す必要があります。
「和」という漢字や考えは、大乗仏教とともに中国から入ってきたものですが、日本人は古来、似たような概念を持っていました。それは自然と調和し、共存するという考え方ですね。早い時期から仏教に接した聖徳太子は、その古来の概念を「和」という言葉とマッチさせたのです。
日本人は明治維新以降、諸外国に追いつけ追い越せという富国強兵の理念で突っ走ってきました。「和」を重んじる日本人の優れた精神は抑えられ、損なわれたのです。それは太平洋戦争の終戦以降も変わらず、経済大国として一番でないといけないという考えのまま、バブル経済の崩壊まで続きました。
身近な家族や仲間の苦しみを見ないまま、前ばかり見て進んできたようなものです。昨今、子どもの虐待死など、理解しがたいような事件が次々に新聞やテレビで報じられていますが、それは人々の平和観がぶれてしまっているからだと思います。
今回のキャンペーンは、単にシンポジウムや展覧会を開くだけではありません。10年をかけて日本人の精神性を見直し、どうあるべきかという心の再構築をしていきたいのです。
「和」の心を発展させたものが平和です。人によって多少考えの差はあるでしょうが、平和のための大きな流れをつくりたいと思っています。それができれば、世界の平和にもつながっていくと信じています。