未来の健康リスクを減らすため、いま取り組める健康習慣を考えるスミセイウエルネスセミナーが9月1日、よみうり大手町ホール(東京都千代田区)で開かれました。現在もマスターズで活躍する陸上競技選手の朝原宣治さんらトップアスリートのアドバイスに、来場者が熱心に耳を傾けました。
あいさつ人生を豊かにするヒント
住友生命福祉文化財団は、予防医学振興、福祉、音楽文化振興の3事業を展開しています。福祉事業の一環の「スミセイ ウエルネス セミナー」は各都市で毎年開催し、昨年度も43都市で約9000人のご参加をいただきました。「人生100年時代」といわれる昨今、未来の健康リスクを減らして10年後、20年後の人生を豊かにするために何ができるのか。本日は、トップアスリートの皆様の健康管理術からヒントを得ていただければ幸いです。
野呂 幸雄氏(一般財団法人 住友生命福祉文化財団 理事長)
基調講演カラダマネジメント術 ~陸上競技から学んだこと~
けがを機に一から体を作り直す
北京2008オリンピック400メートルリレーでメダルをとったのは36歳の時。スプリンターではとっくにやめている年齢ですから、僕はカラダマネジメントがうまかったんですね。引退してしばらく競技をやめていましたが、去年からマスターズに挑戦し、徐々に走っています。
国体100メートルで日本記録を出した大学時代は、食事にほとんど気を使っていませんでした。食事面を含めて自分をコントロールするようになったのは、ドイツに留学してからです。ヨーロッパにはいろんな競技会があり、海外の選手は当たり前のように転戦しています。僕も様々な国を回りました。移動による疲れも加わり、食べ物にも自然と気をつけるようになりました。試合当日に体調や気持ちをピークに持っていくため、食事や睡眠、トレーニングについてよく考えることが、自分をコントロールする練習になりました。
競技のやり過ぎはけがのリスクも高めます。アトランタ1996オリンピックに初出場し、世界と戦える自信を深めていた中での左くるぶしの疲労骨折は、本当に悔しかった。でも、「残念」で終わらせたくなかったので、日本記録を出したこと、パイオニアのつもりで頑張ってきたことも全部リセットし、一から体を作り直そうと決意しました。何とか2年でけがを克服し、個人100メートルは無理だったものの、リレーに呼んでもらい、2回目の出場を果たすことができました。あのけががなければ、36歳まで競技を続けることはできなかったでしょう。ピンチは、それをどうプラスにするかが大事なんだと学びました。
その後も渡米するなどし、経験を増やしていきました。今よりもっと強くなるために、新しい環境を求め、新しいトレーニング法を探す。今も、そんな好奇心が原動力です。
トークセッション少しの工夫で未来が変わる ~今日から始める健康習慣~
目標設定が継続のカギ
塩田 健康維持に効果が高い運動やスポーツですが、国民全体の実施率はこの10年でそう大きな変化はみられません。一歩を踏み出し、継続するには何が必要でしょうか。
朝原 ドイツ留学をした時、トップとのレベルの差を実感し、そこを埋めようと必死に練習に励みました。健康のための運動でも、なんでもいいので目標を決めるというのは一つの手だと思います。けがをした2年間も、モチベーションが最大の原動力でした。
星 高校生の時にバセドウ病と分かり、当たり前に水泳ができるありがたみに気付きました。もう一度泳ぎたいという目標があったから、頑張ることができました。引退後、運動が億劫(おっくう)になった時も、水泳教室で子どもたちを指導する際、メダリストとしてのイメージを崩したくないと体形維持を目標に立てたことで、ジム通いを再開できました。
初瀬 大学在学中に目が悪くなり、何をしたらいいか分からなくなった時、勧められて視覚障害者柔道を始めました。息があがってきつかったけど、7年ぶりに汗をかく喜びを味わい、とにかく楽しかった。継続するには、最初は頑張りすぎないほうがいい。また、前もって予定に組み込んでおくと、仕事や用事を入れないように工夫して続くと思います。
塩田 目標設定が大切ということですが、苦しい時にどうやって目標を立て、次のステージを見据えましたか。
朝原 けがをしている間、とにかく妄想を膨らませました。どこを克服したら、前よりも強くなれるのか。仮定を立てて、そこに向かっていくしかないと決意することで、新しい挑戦のきっかけにできました。
星 コーチが病気について勉強し、練習メニューを考えてくれました。その日の体調にあわせ、疲労感があったらすぐにやめるなど、無理をしないように心がけました。理解のある担当医や家族のサポートもあり、もう一度目指せる体や環境があるんだから、感謝しながらやろうという考えになれたことが大きかったです。
初瀬 障害者がスポーツをしようとすると、まずは場所や環境の確保が大変で、面倒なことが多い。確保できても移動の問題があり、なかなか行き着けない。いろいろな人のサポートをいただいて、そこを乗り越えた時、楽しいことがいっぱい待っていました。
見える化で変化楽しむ
塩田 だるくても、時間がなくても、何か一つやってみる。体や心が変わってくると、継続の力にもなります。どうすれば自身の変化に気付きやすくなりますか。
朝原 僕の健康度を測るバロメーターは寝起きのスッキリ感ですね。体重や体の部位を測定して見える化をすると、指標ができ、やる気につながっていきます。
星 私は筋肉を鍛えながら体を絞っているので、体脂肪が減っているとすごくうれしい。やはり、目で見て分かるものがあったほうが頑張れると思います。
初瀬 体重を1日4~5回量っていると、何を食べたらどれだけ増えるか、100グラム単位で感覚的に分かってきます。数値化に加えて体感の部分でも、変化を楽しむ。同じ目標を持つ仲間をつくったり、周囲に宣言をしたりするのも効果的です。
【主催】一般財団法人 住友生命福祉文化財団、読売新聞社
【協賛】住友生命保険相互会社 東京中央支社
【後援】公益財団法人 東京都スポーツ文化事業団